2017年 4月 26日(水)

【キーワード】

  • 広義の競合
  • ロボット活用は選択肢の一つ

先日、仲間とコミュニケーションロボットについて話し合う機会がありました。そこである事に気が付きました。それは彼らが「ロボットをロボットとして見ている!」ということです。「ロボットをロボットとして見る?」のは当たり前なことですが、そういう見方だけをしていると本質を見過ごすことになります。

 

重要なことは、介護施設にとってロボットは選択肢の一つにすぎないということです。また、メーカー寄りの立場で表現をすると、介護ロボットの競合は他のロボットだけではないということです。

ロボットメーカーにとって「他社のロボット」は狭義の競合にすぎません。実際には本当の競合である「広義の競合」にも注意を払うべきでしょう。

 

例えば、コミュニケーションロボットは介護施設のレクリエーションに使われています。歌を歌う、ダンスをする、ゲームをするなど、ロボットが人にかわってエンターテーナー役を演じてくれます。だからロボットの存在は、施設にとって非常にありがたいはずです。

 

ところが、そういうエンターテーナー役として必ずしもロボットに登場してもらう必要はないのです。施設は無理にロボットを活用しなくても困らないはずです。つまり、これまでのように人にエンターテーナーを演じてもらう方法でも良いのです。

 

そこで注目すべきはボランティアの存在です。今、介護施設で働くボランティアの数が増えています。

東京の稲城市や町田市、神奈川県の横浜市、岡山県の倉敷市などの自治体では、地域の介護施設でボランティア活動に従事した高齢者に対して(後に換金できる)ポイントを付与する制度を導入しています。

 

ボランティア活動は、高齢者にとって生きがいになります。施設に出向いてボランティア活動に従事すれば、自身の趣味を活かして人に喜んでもらえます。

しかも、仲間づくりになります。これは私が関わった横浜市のボランティアから回収したアンケートの集計結果からも明らかです。全国の自治体では、こういった元気な高齢者が活躍する場を積極的に提供し始めています。

 

ボランティア活動の機会の提供は、自治体にとって介護予防という面から注目の取り組みです。しかも、高齢者が元気になってくれれば介護保険(社会保障費)の負担が減って助かります。

また、介護施設にとってはボランティアが人手不足の救世主になってくれます。先述の通り、高齢者にとってボランティア活動は生きがいそのものであり、仲間作りになります。まさに「三方良し」ということです。

 

今、ボランティアを希望する高齢者が増えていますが、介護支援ボランティアの制度を初めてスタートした市町村は東京都の稲城市です。それは2007年のことでした。稲城市のスタートからちょうど10年が経過しますが、今では300近い市町村が同様の制度を導入しています。

 

ボランティアの活動範囲は多岐に渡ります。施設の利用者の話を聞いてあげる傾聴ボランティアがいるかと思えば、ギター演奏してくれる人、けん玉を教えてくれる人など様々です。元気な高齢者の活躍の場が介護支援ボランティアにあるのです。

 

ただ、ボランティアに来てもらうことは、人との触れ合いの機会が増える一方、人間なのでどうしても些細なトラブルが付きものです。お互いに気を遣う煩わしさもあります。

でも、ロボットであれば、こういった人間と人間が接するからこそ起こるトラブルに悩まされることはありません。とはいうものの、直接的な費用負担がないことや人と人との触れ合うことのメリットなどを踏まえると、今後はますますボランティアを活用する施設が増えていくことが容易に想像できます。

 

まさに、介護施設にとってロボット活用は選択肢の一つにすぎず、「ロボットをロボットとして見ている!」だけでは不十分なのです。顧客(ユーザー)視点が不可欠なのです。

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