2018年 3月 10日(土)

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  • 平成30年度予算
  • 脱ロボット化

前回のNo.27: ロボット活用に向けた施策で最も重要なことは…」と題したコラムでは、自治体の次年度(平成30年度)予算がほぼ固まりつつあることを述べました。

また自治体の介護ロボット関連の取り組みについては大きく「開発支援」「導入支援」「実証支援」の3つに分類できると説明しました。

前回からさらに自治体(都道府県)の次年度予算を調べてみたところ、いくつかの傾向をつかむことができました。一言で表すと、これまでと異なる表現が使われ始めていることです。

1つは「ロボット」という表現の使い方の変化です。地域医療介護総合確保基金(介護分)を活用したロボットの購入費を補助する事業では、多くの自治体が「介護ロボット導入推進支援事業」という名の下に「ロボット」という表現を使っています。しかし、それ以外の事業についてはある変化が見られるのです。

それは、以前であれば「介護ロボットを活用して介護職員の業務負担軽減を…」や「ロボット介護機器を…」などと表現されていたはずの箇所にロボット以外の言葉が使われ始めていることです。多いなと思ったのはICTです。例えば、次のような表現を発見しました。

  • ICTを活用して介護職員の業務負担軽減を図る
  • ICT活用プロジェクトへの支援
  • ICT機器活用による介護事業所負担軽減支援
  • ICT技術を活用し、サービス付き高齢者住宅を拠点とした地域の見守り体制を構築する

なお、「介護ロボット導入支援事業」 は、各自治体に設置される地域医療介護総合確保基金(介護分)によって実施されており、介護ロボットの導入費用を補助する事業です。1台につき最大10万円まで補助されます。

この事業は平成27年度に始まり3年目がもう終わるところですが、どこの自治体でも見守り機器の購入割合がかなり高いようです。

見守り機器については介護ロボットにカテゴリーされますが、ロボットというよりもICT機器です。そのようなこともあり、他よりも早く普及が見込まれる見守り機器を意識してか、ロボットという表現を止めてICTを使い始めたと思われます。

別の角度から少し専門的に表現すると、介護ロボットという市場から見守り機器だけはニッチ化し、独自の市場を形成していく前兆のはずです。

また介護に限らず、農業・建築・環境・観光サービス・教育などの分野においても「ICTを活用した実証実験を実施する」「ICT等を活用したスマート農業の取組を推進」「ICT等先端技術の導入」などと「ICT」の表現が目立ちます。

どの分野でもICT化が叫ばれる中で、介護はその対象の1つなのです。

繰り返しますが、介護職員の業務負担軽減をはじめ、ある目的を達成するために、以前では「ロボット」と明記されていた表現が「ICT」に置き換わってきたのです。これに加え、もう1つの傾向はロボットでもICTでもない第三の表現の登場です。

例えば、ある自治体の資料には「介護事業所での次世代介護機器の適切な使用及び効果的な導入を支援することにより、介護職員の定着及び高齢者の生活の質の向上を図る」と明記されています。

昨年までは「ロボット介護機器」と記されていた箇所の表現が「次世代介護機器」に変更したのです。そこにはロボットという表現はもうありません。対象となる機器は以前と何ら変わらないにも関わらず、敢えて変更した背景には、ロボットという表現に違和感を覚えたからかもしれません。

あるいは「ロボット=操作が難しい、価格が高い」などとイメージする人も少なくなく、敬遠してしまいがちな介護職員へ配慮するために第三の表現を用いたと思われます。

個人的には「次世代介護機器」はなかなか良い表現だと思います。なぜなら、この表現であればロボット(ロボテックス)、ICTAIIoT、ブロックチェーンといった流行りの技術用語に振りまわされずに済むからです。次世代介護機器と言えば、それらを全て網羅してくれます。

 

また別の自治体では「福祉機器等の導入支援を抜本強化することにより、介護職員の負担を軽減するノーリフティングケアを推進します」と、「福祉機器等」という表現を使っています。

それに、殆どの自治体では介護職員の業務負担軽減や効率化の課題解決の手段・ツールとして、ロボットやICTの活用を推進する中、敢えてノーリフティングケアを全面に打ち出して出している点が特徴的です。

この政策を打ち出した背景には、利害関係を含め諸々の事情があったかと思います。それに本来であれば、課題解決が目的であり、そこで使われる手段・ツールにはいくつもの選択肢があるはずです。

だからどのようなツール(機器)や手段を使うかは施設が決めれば良いことであり、選択肢を与えてあげた方が良いでしょう。そういう点において「次世代介護機器」は良い表現ですが、ノーリフティングケアでは自治体側が選ぶ側の選択肢を1つに絞ってしまっていることになります。

しかしながら、ある意味とても評価できる取り組みです。なぜならNo.27: ロボット活用に向けた施策で最も重要なことは…」と題した前回のコラムにも書いた通り、横並びではなく独自性を打ち出しているからです。

 

ところで、ロボットに限らず、ICTAIIoTなどを使うことは、課題を解決し、よりよい社会や職場をつくることが目的のはずです。その手段として新技術に期待が寄せられているのです。

しかし行政や研究機関の組織が縦割りであると同時に、産業振興の影響が強いこともあり、特定のモノの活用を前提にした施策になりがちです。でも今後はそういう点も改善されていくことでしょう。

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