【コラム】介護ロボットの着眼点

介護ロボット

高齢化の進展に伴う社会課題の解決、それに新産業の育成という面でも注目される介護ロボット。

このコラムでは「介護ロボットの着眼点」と称し、私、関口が2010年にスタートさせ、現在も取り組んでいる介護ロボットの普及推進にまつわる話をお伝えします。

過去の取り組みをはじめ、現在、未来と時間軸をずらし、あるいは、メーカー、介護施設などと立場を変えながらお伝えする介護ロボット普及推進のコラムです

 

2018年 4月 30日(月)

介護ロボットコラム029: 過去のターニングポイントと面白い取り組み

介護ロボットの普及に向けて国や自治体ではこれまでいくつもの支援や施策を次から次と打ち出してきました。国では経済産業省および厚生労働省が介護ロボット普及の旗振り役を担っています。また自治体の取り組みとしては、神奈川県が平成22年度に国や他の自治体に先駆けて介護ロボットの普及推進事業をスタートさせましたが、今では多くの自治体が介護ロボット絡みの事業を展開しています。

本日は、これまでの行政の取り組み(過去のターニングポイント)をおさらいすると同時に、介護ロボットの普及に向けて過去に行われた中で「これは面白い!」という事業(取り組み)をいくつか紹介します。

介護ロボットの普及に向けて取り組んできた行政の支援や施策に注目すると、これまで大きく3つのターニングポイントがあったと考えています。

1つ目のターニングポイントは平成22年度の神奈川県事業です。同県が国や他の自治体に先駆けて介護ロボットの普及推進を図るために事業をスタートさせたのです。今からちょうど8年前のことです。

介護分野においては人材を取り巻く様々な課題がグローズアップされていました。その課題解決の一環として、介護分野の課題解決に向けてロボット関連技術などを活かす、行政として最初の試みが神奈川県でスタートしたのです。そういう意味でターニングポイントでした。

私、関口は当時、その事業の実行部隊の責任者を務めていましたが、計4機種のロボットを各メーカーから借り上げ、神奈川県内の7施設に3カ月間試験導入しました。

自ら書き上げた「最終報告書」をチェックしてみたところ、その事業では最初から「介護ロボット」という言葉を使っていたことを改めて認識しました。でも当時は「介護ロボット」という言葉が今のように広く知れ渡っていなかったので、介護施設に出向いて説明する際には「介護ロボットとは・・・」や「介護ロボットにはこのような製品が該当します!」などと定義や認識のすり合わせをしなければなりませんでした。

その頃は思いも寄らなかったのですが、この事業の取り組みが後に国や他の自治体に大きく影響を与えました。8年も経過した今になってから、平成22年度神奈川県と同じような事業をようやく始めようとする自治体もあるくらいです。

 

また、2つ目の1つ目のターニングポイントは、神奈川県事業のスタートから3年後の平成25年に掲げられた国の「ロボット介護機器開発5ヵ年計画」です。平成256月に第二次安倍内閣が掲げる成長戦略で閣議決定されたのが「日本再興戦略」でした。

そこには安価で利便性の高いロボット介護機器の開発をするために「ロボット介護機器開発5ヵ年計画」が盛り込まれました。つまり国が介護ロボットの普及に向けて本格的に開発支援をスタートさせたのです。だからこれが2つ目のターニングポイントとなるのです。

なお、お気付きかもしれませんが、国は「介護ロボット」ではなく「ロボット介護機器」という表現をしたのでした。

 

さらに、3つ目のターニングポイントは、平成27年度厚生労働省補正予算の「介護ロボット等導入支援特別事業」です。それまでにも介護施設に対する購入補助の制度はありましたが、自治体単位で行われていたため、規模・期間・対象地域などが限定的でした。

例えば、先に紹介した平成22年度神奈川県事業では、介護施設に無償でロボットを貸与したのですが、3カ月後には返却してもらいました。しかも神奈川県の事業だったので、対象は県内の施設に限定していました。

平成27年度の厚生労働省の特別支援事業では、なんと52億円もの税金が投入されました。補助率は10/10で、対象は全国。そのため、この事業を機に平成28年の後半から29年の前半にかけて、多くの介護ロボットが介護施設に導入されました。またこれを機に多くの企業が代理店として名乗りを上げて介護ロボット市場に参入しました。

 

そして平成30年度の介護報酬改定。これが4つ目のターニングポイントになるかと思いきや、残念ながらさほど大きなインパクトを与える内容ではありませんでした。

前々回のNo.27: ロボット活用に向けた施策で最も重要なことは…」と題したコラムの中にも書きましたが、自治体の介護施設向け事業の多くは地域医療介護総合確保基金などを活用した購入補助の事業だけ、あるいはそれに加えて「講演と事例発表会+ロボット展示」のイベントを12回開催する程度です。

そのような中、私が見てきた、あるいは実際に実施した行政事業の中で「これは面白い!」という取り組みをいくつか紹介します。

 

好きなロボットを施設まで持ってきてくれる

これは神奈川県が始めた事業です。リストの中から施設が興味のあるロボットをいくつか選び、委託事業者がそれらを車で運んできて簡単なデモをしてくれるという事業です。デモの出前をしてくれるわけです。施設にとっては、外に出向くことなく、都合の良い日時に興味のある機種だけを持ってきてもらい、お試しできるという点が良いのです。「知ってもらう!」という点では良かったのです。

ただし、個人的には福祉用具のような機能が単純で操作が簡単な機器には向いていますが、そうではないロボットにはよろしくないと考えていました。なぜなら、委託事業者はデモするロボットの操作方法を伝えるだけ。介護現場の実態を何も知らないと、それ以上に上手く説明することができず、施設の職員に対してマイナスのイメージを与えかねないからです。事実、そのような点に不満を漏らしているメーカーがいました。

メーカーとしては、(彼らから見て)素人に中途半端な説明をされることは避けてもらいたい一方で、自社あるいは自社が認めた代理店が説明した方が良いと考えていたようです。

 

機種特化型のディスカッション

これは読んで字のごとくある特定の機種に特化してディスカッションを行なうことです。コーディネーター役がユーザー(施設の職員)から体験談などの話を引き出しながら進めるイベントです。

「なぜその機種を選んだのか?」「どのように活用したのか?」「活用に際しては、どのような苦労があったのか?」「どのようにその苦労を乗り越えたのか?」などと非常にリアルな話を進める方法です。パネルディスカッションやシンポジウムの機種特化型とも言えます。

今は、ユーザー(施設の職員)のニーズが「ロボットの導入段階」や「導入している(興味のある)機種」によって大きくバラツキ始めています。だから、「介護ロボット」という括りで全てを一緒くたにしてイベント開催するよりも、機種特化型の方が参加者の満足度が高くなるのです。

 

また個人的には、ある施設の職員にあらかじめ原稿を用意してもらって行なう典型的な事例発表スタイルよりも、こちらの方が良いと考えています。なぜなら、施設職員の事前準備の負担が軽いからです。それに会場内では1職員(施設)の意見だけではなく、同じ機種について同時に複数施設の意見を聞けるという点でも良いのです。

ただし、特定機種に特化しているため、広く浅くなるべく多くの参加者を集めることが目的のイベントにはあまり向いていません。また機種毎に開催するので、コーディネーターや事例発表の施設探しなど、イベントの企画側には負担が増します。さらに、特定の機種に特化するので、「公平性を損なう!」や「行政のイベントには相応しくない!」などと指摘されたことがありました。

 

施設向けコンサルティング

行政が実施する介護ロボット普及の支援に際しては、1)「作り手」に開発費用を援助する「開発支援」、2)「使い手」に購入費を補助する「購入支援」、3)「作り手」と「使い手」をマッチングさせ、「使い手」に試験的にロボットを使ってもらう「実証支援」の大きく3つが典型です。これに加えて、4)「講演と事例発表会+ロボット展示」を行なう「イベント開催」があります。

実は、資金を援助してモノを作らせる、あるいは、購入を補助して買いやすくしてあげるだけでは、何もしないよりは良いのですが、なかなかスピーディに普及が進みません。そこで「教育」をセットにする方法があるのです。

これに関してはセミナー開催という方法があり、現に実施している自治体があります。しかし、多数の中で12時間受身になって聴講するだけでは、わかったつもりになっても実際にアクションを起こすまでには至らないケースが殆どです。そういう意味で同じ施設を最低でも4-5回訪問する施設向けコンサルティングはとても有効だと考えています。

ただし、多数ある中でメリットを享受できる施設が限られてしまうという問題があります。

 

ちょっと長くなったので、今回はこのへんで…。

介護ロボット市場開拓のマーケテイング

【No.30】成功への第一歩はメニューに載ること?
【No.29】 過去のターニングポイントと面白い取り組み
【No.28】 平成30年度の介護ロボット予算で気付いたことは…
【No.27】ロボット活用に向けた施策で最も重要なことは…
【No.26】市場開拓にレバレッジが効く「1対N」のアプローチ
【No.25】介護ロボット市場の開拓にも必要なユーザー教育
【No,24】誰が介護ロボット市場を制するか?
【No.23】介護ロボット代理店の苦労
【No.22】ロボットビジネスのセグメント化
【No.21】「ニーズの違い(バラツキ)」とイベント企画
【No.20】施設が補助金に飛び付く前にやるべきこと
【No.19】施設にとってロボットの導入で最も重要なことは?
【No.18】ロボットをロボットとして見ているだけでは?
【No.17】ロボット市場への参入は凶と出るか吉と出るか?
【No.16】ロボットセミナーの開催で判明した顧客のニーズ
【No.15】潜在顧客から見た見守りロボット
【No.14】介護ロボットは6年前より増えたが、その一方【No.13】見守りロボットは是か非か?
【No.12】介護ロボットを活用する直接的なメリット
【No.11】ロボットに頼らない活用方法は?
【No.10】施設の介護ロボット選定の実態は?
【No.9】介護ロボット市場の開拓には?
【No.8】補助金政策による光と影
【No.7】補助金のメリットとデメリットは?
【No.6】自治体支援策の特徴は?
【No.5】ハードだけではなく、ソフト面も必要では?
【No.4】介護現場にロボットを導入するための要件は?
【No.3】なぜ、「普及はまだまだ!」なの
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【No.1】介護ロボットの普及を電子カルテと比べると