介護ロボットの着眼点(No.30)

成功への第一歩はメニューに載ること?

2018年 6月 12日(火)

【キーワード】

  • 市場開拓
  • 補助金
  • 参入障壁

一体、施設はどのようなプロセスを経て特定の介護ロボットを購入する決定を下すのでしょうか?

その前に一般的な場合を紹介しましょう。通常だと顧客の意識は「問題認識」→「解決策の検討」→「情報入手」→「興味」→「比較検討」→「意思決定」などと移っていくことになります。

少し詳しく説明しましょう。

「問題認識」とは、「夜間の見守りが負担だ!」「職員を採用しても直ぐに辞められてしまうので、一年中採用活動をしなければならない!」「行政に提出する書類が多く、作成に時間が掛かる!」などと問題を認識することです。

そのような「問題認識」があり、「何とかしたい!」という意志から「解決策の検討」を行うことになります。

また「解決策の検討」から一歩進んだ行いが「情報入手」となります。課題を解決するための術を探し出し、必要な情報を仕入れることです。

ヨソの人に聞きに行くかもしれないし、インターネットで検索するかもしれません。本屋に立ち寄り書籍を探し出そうとする人もいるでしょう。

さらに「問題認識」すると、自ずと広告などの情報が目に留まるようになります。逆に、問題認識がなければ、それを目にしても直ぐに忘れてしまいます。というか、意識していないから目に入らないのです。

そして仕入れた情報の中から「おや!」と思った対象については、「興味」を示すことになります。興味を示す対象が1つだけであり、「これだ!」「これしかない!」「今しかない!」「他を探してもムダだ!」などと考える人は、そこから「比較検討」を飛び越えて「買うぞ!」と「意思決定」します。

しかし、人によっては、「他にもっと安いものがあるのでは?」「もっと良いものがあるのかもしれないな?」「焦らずに、もっと他を探してから…」などと判断を先送りするかもしれません。

そういう人は追加の情報を入手するでしょう。そして入手した情報に興味を示すと、それらを並べて「比較検討」した上で、最終的に「こっちにしよう!」などと決めるはずです。

 

上に書いた内容の詳しいことは当サイトで販売している「介護ロボット市場開拓のマーケティング」という教材の中に詳しい説明がありますが、ユーザーは購入するという意思決定に至るまでに、このような試行錯誤というか旅をするのです。それはカスタマージャーニーなどと呼ばれます。

このような旅をすることで最終的に「購入」という最終時点に辿り着くわけです。あるいは、「これは買わない!」「一旦、保留!」などと意志を固めることになります。

ところで、施設が介護ロボットを購入する際は、上記に書いたような旅をするのでしょうか? もちろんします。同じような旅をします。しかし、介護ロボット購入の場合は、旅路が上の例とは少し異なるようです。

中でも「情報入手」のところが異なります。問題認識して、解決策を検討するために情報を入手して…と自ら情報を取りに行くよりも、じっとしていても行政から情報が入ってきます。また、メーカーからのアプローチ(営業)によって「情報入手」するケースも多いと思われます。

特に「補助金の情報」には目が留まるようです。施設だけではなく、メーカーもその情報には敏感です。施設の人には、「本県の●●事業で補助対象となる機種の一覧はこちらです!」などの情報が入ると、どうしてもその中からロボットを選ぼうとする傾向が強いのではないでしょうか?

「どうせなら補助金対象の機種を選ぼう!」という発想は自然なことかと思います。

例えば、スーパーで刺し身のパックに「30%引き」や「半額」というシールが貼られていると、私はお得感からからついつい手が伸びてしまいます。「本当は何が欲しいのか?」などとはよく考えることもなく、「30%引き」や「半額」というシールが貼られていると手が伸びやすくなるのです。

同じようなことが介護施設のロボット選びでも起きているはずです。つまり、「せっかく補助金があるのだから!」と地元自治体から送付された「本県の●●事業で補助対象となる機種の一覧表」の中から選択しようとするのです。

別の言い方をすれば「本県の●●事業で補助対象となる機種の一覧表」に載っていない機種については、先に書いた「興味」→「比較検討」へとコマを進める対象にならないのです。

その一覧表に載っていなければ、よほどのことがない限り目に入らないので、興味を示すまでには至らないのです。比較検討の対象になりません。

これが介護施設のロボット購入を決める際の現実ではないでしょうか?

メーカーの視点に立つと、「本県の●●事業で補助対象となる機種の一覧表」に載っていないということは、あたかもレストランのメニューに自社製品が載っていないことと同じと言えるのではないでしょうか?

レストランに入れば誰もが、店のメニューを手にして、そのメニューに載っている料理を選ぼうとします。寿司屋に行けば、誰もが「中トロ」「サバ」「サーモン」などを選ぼうとする一方で、「俺は、ロースカツが食べたい!」などと言う人は殆どいません。

メニューがあるため、メニュー以外の料理は完全に蚊帳の外に置かれることになるです。メニューがあるために、選択しやすくなるのですが、そこに記載がない料理は眼中にないのです。

これと同じことが介護ロボット購入に際して起こっているかと思います。

つまり、「本県の●●事業で補助対象となる機種の一覧表」というメニューに載らない限り、メーカーは自社製品をユーザーからなかなか選んでもらえないという事態に遭遇します。

毎年のように補助金が次から次と用意されるので、施設にとっては、介護ロボットの購入に際して補助金を活用することが当たり前の感覚となります。

だから、もし補助金対象の機種に指定されていなければ、レストランでメニューに載っていない料理のような存在になってしまうのです。「なかなか選んでもらえない!」「検討の対象外!」になってしまいます。

メーカーの営業マンが「ぜひ、ウチの製品を!」と勧めたところ、「補助金対象の機種の方がいいや!」とついつい「30%引き」や「半額」というシールが貼られている刺し身に目が行ってしまうのと同じようなことが起こります。

さらに、自治体は、「本県の●●事業で補助対象となる機種の一覧表」に載っているメーカーを自ら主催する介護ロボットセミナーに呼んで展示をお願いしようとする傾向があります。そうなると、気の毒なことに、一覧表に載っていないメーカーはさらに隅の方に追いやられることになります。

本来なら、補助金制度はメーカーにとって自社製品の絶好の販促機会となるはずです。ところが、買い手である施設が「補助金対象の一覧表」の存在によって「検討対象の機種」と「検討対象外の機種」を区別してしまうのです。

だから、メーカーにとっては、「補助金対象の一覧表」に自社製品を載せてもらわなければ、絶好の販促機会どころか、目に見えない参入障壁に直面することになります。

このような実態を踏まえると、まさに「成功への第一歩はメニューに載ること」と言えるのではないでしょうか?

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