特別レポート1:未知なる介護市場への参入:特異な市場を理解する

その3)強化すべきは戦略とマーケティング(2/2)

5.セミナーはどう開催すべきか?

今、多くの業界で、マーケティング活動の一環として「セミナー」を企画・開催しています。セミナーは、集客の優れた手法として広く活用されています。実際、ロボットやITツールの販売活動においても、セミナーは素晴らしいマーケティング活動の一環として機能しています。

しかし、セミナーを単に開催するだけでは成功するとは限りません。セミナーの企画・運営には、上手な方法と下手な方法があります。興味深いことに、大手企業が必ずしもセミナーを上手に運営しているわけではありません。逆に、小規模な企業の方が上手にセミナーを開催している例も多いのです。

上手なセミナー運営者は、セミナーの目的を明確に定めています。つまり、「誰を対象にし、何を達成したいのか?」というポイントを明確にし、それに基づいてセミナーを計画しています。導線を設計し、アンケートをうまく組み込んで、セミナーを一連のマーケティング活動として位置づけています。

そのため、参加者がアンケートに「かなり満足」と回答してくれることよりも、むしろ次のステップに進んでくれるかどうかが重要となります。セミナーの成功は、単発のイベントではなく、次なるアクションにつながることにかかっています。企画側が参加者を次なるステップへと誘導できなければ、セミナーは成功とは言えません。

逆に、下手なセミナー運営者は、セミナー自体が目的になってしまうことがあります。彼らはセミナーを単なる儀式として捉え、アンケートにも「かなり満足・満足・普通・やや不満・かなり不満」という基本的な質問しか行いません。これではセミナーの改善にはつながりません。

セミナーの成功には、企画側と参加者の期待や評価のギャップを理解することが不可欠です。そのため、「本日のセミナーはいかがでしたか?」という簡単な質問だけでは不十分で、より詳細なフィードバックを収集する必要があります。

最終的には、セミナーの成功は、参加者の全体的な体験に関連しており、「かなり満足」という表面的な評価だけでは物事の本質を捉えきれないことを理解することが大切です。

6.情報の出し分け:「今すぐ客」と「これから客」

「買い手」は、なぜロボットやITツールなどの「新しいツール」を購入するのでしょうか? 彼らの目的は、そのツールの操作方法を習得することではありません。彼らは、自身が抱える課題を解決し、目標達成に向かって前進するための手段の一つとして、「新しいツール」の導入を検討します。

しかし、多くの「買い手」はしばしば「目先の課題」に焦点を当てがちです。問題が発生したときにその目先の解決策探しに集中し、本当に目指すところを見過ごすことがあります。したがって、重要なのは「買い手」に、「目先の課題の解決」だけでなく、「もっと大きな成果」に気づかせることです。そして、「新しいツール(貴社の製品?)」の活用によってそれが実現できる、という道筋を示すことです。

「目先の課題の解決」だけでなく、「もっと大きな成果」に気づかせるためには、「顧客育成」のプロセスが非常に重要な役割を果たします。このプロセスを、貴社のマーケティング活動に組み込むことが重要です。

再度強調しますが、買い手に「目先の課題の解決」だけでなく、「もっと大きな成果」に気づかせることです。そして、それが「新しいツール(貴社の製品)」の活用によって実現できる、という道筋を顧客の頭に描かせることです。彼らに「成功体験」をイメージさせることが大切なのです。

このアプローチは、セミナーを通じて実行できることがあります。セミナーは「場」を共有し、五感を通じて参加者に情報を伝え、お互いの反応や感情を共感する機会を提供します。セミナーは非常に効果的なツールなのです。

しかしながら、私がよく目にする説明会(セミナー)は、しばしば「今すぐ購入を検討中で、AかBか迷っている」「もっと詳細を知りたい!」など、「今すぐ顧客」として参加する人々に焦点を当てています。この層の人々は、既に導入に意欲的で、競合他社の選択肢を検討している段階です。ただし、次に示すように、彼らはピラミッドの上位に位置する少数派です。

そして、「今すぐ客」の背後には、その何倍もの「これから客」が控えています。ポイントは、同じ「見込み客」とはいえ、「今すぐ客」と「これから客」とでは、ステータスが違うということです。それぞれのステータスの違いを意識した上で、情報を出し分ける必要があるのです。

しかし、よく見られる問題は、「これから客」に対して「今すぐ客」に提供すべき情報を出しているケースです。情報の出し分けができていないのです。「今すぐ客」に対しては、操作方法(使い方)・機能面・導入事例などの情報の提供で良いのです。しかし、「これから客」に提供する情報は、それとは異なります。

先に述べた通り、重要なことは、「買い手」に「目先の課題解決」だけではなく、「もっと大きなこと」に気付かせてあげること。そして、それが「新しいツール(貴社の製品)」の活用によって実現できるという道筋を彼らの頭の中に描かせて、イメージさせてあげることです。

同じことを繰り返しますが、先に述べた通り、「悪い事例」は、情報の出し分けができていないセミナーです。「これから客」の集まりの場に、「今すぐ客」向けの情報をいきなり提供するケースです。おまけに、「ウチの…」「ウチのだけが…」と、売り込みたい気持ちが先行するためか、売り込み色の強いセミナーになってしまうケースが多く見られます。

 

「今すぐ客」向けについては、販売事業者の社員が説明すれば良いのです。その方が細かな対応が可能なはずです。しかし、「これから客」向けのセミナーでは、より汎用的な情報を発信することがポイントです。「貴社製品ありき」ではないのです。しかも、売り込み色を払拭するためには、第三者に演出してもらった方が良いのです。

7.ありきたりなアンケートでは、意味がない

先の「5.セミナー開催はどうか?」のセクションで述べた通り、有効な集客方法としてセミナーが活用されているのです。そこで、このセクションでは、「販売事業者は、どのようにセミナーを開催すべきか?」という視点から、ポイントを少しだけお伝えします。

セミナーの開催については、大きく2つの方法があります。これはどこの業界でも同じです。1つは自社で開催することです。もう1つは他人の企画に便乗する方法です。それぞれにメリットとデメリットがあります。

自社で開催することの最大のメリットは、コントロールと再現性です。場所・開催日・時間・開催回数・講演者など、全てを自社の思い通りにコントロールすることができます。好きなように演出することができます。

だから、セミナーの会場内では、物品の販売などが行われます。私が過去に聴講した中には、かなりライブっぽいセミナーを演出した人もいました。そして、「これで行ける!」というパターンを一旦作り出せれば、あとは自社の都合でいつでもそれを再現することができるようになります。コントロールする力が強くなるのです。

 

一方、他人の企画に便乗する方法では、イベントの開催者が用意したスペースをスポット的に借り、「展示する機会を得る」かのように自社の製品を披露するやり方が一般的です。見込み客になりうる人たちが集まるイベントに、「展示の場」や「説明の時間」を間借りすることになります。これは、新聞や雑誌の広告枠を買う行為と似ています。

一見すると、他人の企画に便乗するやり方が手っ取り早く、簡単そうです。セミナーを単発のイベントとして捉えている限り、まったくその通りであると考えています。しかし、長期的な視点で「集客する(成約につなげる)」という目的を考えると、必ずしも良い方法ではないのです。

では、「自社で開催する」のと「他人の企画へ便乗する」のは、どちらが良いのでしょうか? 一概には言えないのですが、私が調べた限りでは、商売が上手な会社ほど「自社で開催すること」に力を入れています。基本は「自社で開催する」というスタンスの方が良いのです。自社で開催して上手くまわせるようになれば、他人の企画に頼る必要がなくなります。何かと自社でコントロールできるようになるからです。

ところで、もし、貴社が自社でセミナーを開催するのであれば、その目的は何でしょうか? いくらまでなら投資できるのでしょうか? どのタイミングに、どのような形でリターンが期待できるのでしょうか? 結局のところ、こういったシナリオを十分に検討しないまま、漠然と単発のイベントとして開催すると、殆ど意味のないセミナーと化すはずです。それでは「開催すること」が目的になってしまいます。

8.販売で、まず、やるべきことは?

ロボットの販売現場では、各メーカーや販売代理店が、製品の機能や操作方法を説明することが当たり前のように行われています。しかし、「6.目の前にいる顧客は誰か?」にて述べた通り、「見込み客」を前にした時、「今すぐ客」と「これから客」の違いを意識して情報を出し分ける必要があります。

ロボットの販売方法に関して、前々から私が気になっていたことがありました。先に述べた通り、販売側が「これから客」に対し、「今すぐ客」に提供すべき情報を出していたことです。「今すぐ客」は、「買うつもりだが、AとBのどちらにするか、迷っている」「だから、もっと知りたい!」などという人です。他社製品との比較・検討を済ませていて、すでに導入に意欲が高いと思われる人です。このような「今すぐ客」に対しては、操作方法(使い方)・機能面・導入事例などの情報を提供すれば良いのです。

また、見えていないモノを「見える」ようにしてあげる必要があります。これも説明済の内容ですが、例えば、「ほうれん草」や「トマト」と言えば、殆どの人がすぐにイメージすることができるはずです。

それをどう使えば良いのか、多くの人がすぐにイメージすることができます。ところが、非常に珍しい変わった野菜だと、「何、それ?」となります。特に、カタカナ名だと人の頭になかなか入ってきません。事実、私の場合、英語名であればすぐに頭に入ってきますが、フランス語やドイツ語だと1回や2回言われただけではわかりません。

だから、野菜を売る事業者(売り手)は、「栄養面ではこのようなメリットがあります!」「レシピにはこのような例があります!」「A子さんは○○料理に使っています!」などと、わかりやすく情報を発信するように努力します。これは消費者(買い手)に認知・理解してもらうための取り組みです。

今までの消費者(買い手)には見えていなかったモノを、「見える」ようにしてあげているのです。そうやって、事業者(売り手)は、消費者(買い手)の頭の中にインプットさせて、「気付いてもらう」「注意を払ってもらう」という活動を自社のマーケティング活動の中に取り込んでいます。

 

これと同様ですが、介護職員に対して見慣れぬ「新しいモノ」を販売する際は、見込み客(介護職員)に「教えてあげるべきこと」や「先に理解してもらった方が良いこと」があるのです。ところが、よく見られる問題は、「これから客」に対して「今すぐ客」に提供すべき情報を出していることです。

「今すぐ客」向けの情報を提供することによって、「期待値を高めてもらう」のではなく、「難しそうだ!」「面倒だ!」などの否定的なイメージを先に与えてしまっているかもしれません。

だからこそ、これまで見えていなかったことに「気付いてもらう」「注意を払ってもらう」ためには、買い手に「見える」ようにしてあげる工夫が必要なのです。このセクションは、先述の内容の繰り返しになってしまいましたが、それがまさに「販売で、まず、やるべきこと」なのです。