国や自治体の介護ロボット支援策

介護ロボットの普及に向けて、国やいくつもの自治体がさまざまな支援策を打ち出しています。神奈川県では、2010年から国や他の自治体に先駆けて介護ロボットの普及推進に向けた取り組みをスタートさせました。その後、神奈川県を追随するような形で、国や他の自治体が介護ロボットの開発・実用化に向けてさまざまな取り組みを始めました。

国では経済産業省および厚生労働省が介護ロボット普及の旗振り役を担っています。自治体では神奈川県をはじめ、新潟県、岡山市などが介護ロボット関連の事業を実施してきました。今後はさらに多くの自治体で介護ロボットの普及に向けた事業が実施されることでしょう。

第二次安倍内閣が掲げる成長戦略で平成25年(2013年)6月に閣議決定されたのが「日本再興戦略」です。日本再興戦略には、安価で利便性の高いロボット介護機器の開発をするために「ロボット介護機器開発5ヵ年計画が盛り込まれました。

この計画には成果目標が設定されました。その1つがロボット介護機器の市場規模を2020年に約500億円、2030年に約2,600億円にするということです。

ロボット介護機器開発5ヵ月計画

2013年に国が5ヵ年計画を発表。その後、各自治体が動き出した。

このような成果目標を達成するために国が本格的に動き出しました。「ロボット介護機器開発5ヵ年計画」の施策には、経済産業省の「ロボット介護機器開発・導入促進事業」「ロボット介護機器導入実証事業」などが該当します。

 

国では経済産業省と厚生労働省が協力してロボット介護機器の開発・導入促進体制を築いています。経済産業省が民間企業や研究機関などを対象に機器の開発支援を担う一方、厚生労働省では介護現場を対象に実証(モニター調査や評価)の整備などを進めています。

国や自治体の事業にはさまざまな名称が付けられています。役所では、民間企業と異なり、単年度単位で予算が編成されます。

そのため、殆ど同じ取り組みの継続にも関わらず、事業の名称、予算額、取り組み内容などが年度によって異なることがあります。介護ロボット関連の事業も同様です。

「介護ロボット」という同じテーマを扱っていながらも、行政区域によって縦割りであり、同じ行政区域でも組織(部門)によって縦割りのため、結果として予算を握っている各自治体(各部門)から似たり寄ったりの支援策が時間差でそれぞれバラバラに打ち出されることが多々あります。

 

これまで介護ロボットの普及に向けて全国各地でさまざまな支援策が行われてきましたが、これらは、大きく1)開発支援、2)試験導入・実証実験、3)購入補助、4)リサーチ、それに5)普及推進活動、に分類することができます。

国や自治体の支援策
支援内容主な支援対象概要

1.

開発支援

製造事業者開発費の補助

2.

試験導入・実証実験

製造事業者実証実験という「場」の提供

3.

購入補助

介護事業者購入時の金銭面を補助

4.

リサーチ

アンケートなど調査の実施と報告

5.

普及推進活動

各種イベント(ロボットの展示・説明・体験、研修)など

「開発支援」は介護ロボットを開発する製造事業者に対して、主に経済面の支援をする取り組みです。ロボットを開発する企業に「開発を頑張って下さい!」と応援するためにお金を補助するのです。補助する金額は数十万円程度から数千万円以上と事業によってマチマチです。

開発関連の支援は案件が多いです。介護分野に特化した支援よりも富山県の「次世代ロボット技術開発支援事業」のように支援対象(分野)が広いのが一般的です。

例:

  • ロボット介護機器開発・導入促進事業(経産省)

「試験導入・実証実験」は、実際に介護ロボットを介護施設などに試験的に導入する取り組みです。

神奈川県の「ロボット体験キャラバン」のような数時間程度のスポット的な「お試し使用」のような機会の提供から、半年以上も施設に導入して効果測定を行いながら使用することもあります。さらに、あくまで購入を前提とした試験導入・実証実験もあります。

なお、「開発支援」はロボットを開発する事業者が補助の対象ですが、「試験導入・実証実験」ではロボットを使うユーザー(受入施設)を巻き込むことになります。

評価すべき対象を明確にして、介護する側・される側のロボット使用の主観や有効性、それに介護業務の負担軽減などを評価する効果測定が義務付けられることもあります。

例:

  • 介護・医療分野ロボット普及推進モデル事業(神奈川県)
  • 介護ロボット等モニター調査事業(厚労省)
  • ロボット実証実験支援事業(神奈川県)
  • ロボット体験キャラバン(神奈川県)

「購入補助」は、前述の「試験導入・実証実験」の一部になっているケースがありますが、無料の貸し出しではなく、ロボット導入側の金銭的な負担を軽減してあげる取り組みです。

例えば、平成26年度に実施された経済産業省の「ロボット介護推進プロジェクト」では、メーカーに対して機器コストの1/2(中小企業の場合)や1/3(その他)を補助した結果、購入側である介護施設の金銭面の負担が大きく軽減されました。

平成261月にスタートした岡山市の「介護機器貸与モデル事業」では介護保険給付の対象となっていないパロなどの介護ロボットを要介護者に1割負担で貸与し効果を検証してきました。これは全国初として市が指定の介護機器を利用者負担1割に軽減し貸与する事業となります。

平成27年度厚生労働省補正予算では介護ロボット等導入支援特別事業に52億円を計上するなど介護ロボットを購入する側の負担軽減の動きが強まっています。

例:

  • 介護ロボット普及推進事業費補助金(石川県小松市)
  • 介護ロボット関連産業創出事業補助金(新潟県)
  • 介護ロボット導入支援事業(各都道府県)
  • 介護機器貸与モデル事業(岡山市)
  • 北九州市介護ロボット等導入補助金(北九州市)
  • ロボット介護推進プロジェクト(経産省)

「リサーチ」は、いわゆる介護ロボットに関連する様々な調査です。リサーチの対象は、施設あるいは個人であるケースが多いようです。介護ロボットの導入・使用状況、今後の導入意思などをはじめ、介護ロボットの普及に向けて実態を把握するために行われています。

リサーチは他の支援内容と異なり、開発や購入の促進に直接結びつくことはありませんが、今後の施策を検討する上で重要な基礎データとして役立ちます。

 

例:

  • 在宅における介護ロボット普及の課題と福祉用具専門相談員の役割に関する調査研究事業(厚労省)
  • ロボット技術の介護利用に関するニーズ及び主要国動向調査事業(経産省)

「普及推進活動」は、介護ロボットの普及や推進を目的に行われるさまざまな活動です。わずか数時間で終了してしまう単発的なイベントも含まれます。介護ロボットの展示・説明・体験など場の提供や研修の開催などが該当します。

一般的には、貸会議室や展示場などの会場に複数のロボットを集めて展示する「場」の提供が多いのですが、神奈川県では面白い取り組みをしています。

例えば、平成24年度から「介護ロボット普及推進センター」の運営を開始して、介護ロボットの活用現場の見学ができる機会を提供しています。これは、貸会議室のような場所でのロボット展示とは異なり、介護施設で高齢者(利用者さん)がいる場で介護ロボットの活用シーンの見学ができるのです。

また、試験導入の結果、「単に介護ロボットを導入するだけ」ではなく、ロボット利用の方法や効果的な介護者の関わりなど「誰に対してどのように使うか」の運用技術が重要であるとの結果を踏まえ、ロボットを扱える人材の育成を目的にアザラシ型ロボットのパロに特化した「パロ研修会」を月1回のペースで開催しました(平成2526年度)。

さらに、神奈川県では住宅展示場内のモデルハウス内で生活支援ロボットを身近で体験できる取り組みも行ってきました。

介護ロボットの常設展示も普及推進活動の一部であり、福岡県福岡市のロボスクエア、神奈川県藤沢市のロボテラス、福島県郡山市のレトロなどがあります。

徳島県には、将来の介護人材確保の目的もあり、大人だけではなく小中学生など子供達に介護ロボットを知ってもらう「介護ロボット体験」という取り組みがあります。

 

例:

  • 福祉用具・介護ロボット実用化支援事業(厚労省)

上記では、あくまで「介護ロボット」に限った支援内容を分類していますが、「ベンチャー企業育成」や「ロボット産業育成」などもっと広い枠組みの中に「介護ロボット」の支援が含まれている事業も少なくありません。例えば、次のような支援策もあります。

  • ロボット産業育成型

ロボット産業全体の育成を目的にした支援(事業)の中の一部に「介護ロボット」が含まれるケースです。例えば、神奈川県の「さがみロボット産業特区」があります。

  • 別テーマの便乗型

介護ロボットとは直接関係のないテーマの事業に、特定の機器が活用(採択)されるケースです。一見するとロボットとは関係ないテーマにも関わらず、特定の介護ロボットを上手く便乗(採択)させて啓発するケースです。

  • 特定機器の普及支援型

「試験導入・実証実験」の一部とも言えますが、特定機器の普及を支援する形で自治体などが費用を負担して施設に試験導入するケースです。例えば、神奈川県の「ロボット等を活用した職場処遇改善コンサルティング支援事業」があります。

 

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【No.29】 過去のターニングポイントと面白い取り組み
【No.28】 平成30年度の介護ロボット予算で気付いたことは…
【No.27】ロボット活用に向けた施策で最も重要なことは…
【No.26】市場開拓にレバレッジが効く「1対N」のアプローチ
【No.25】介護ロボット市場の開拓にも必要なユーザー教育
【No,24】誰が介護ロボット市場を制するか?
【No.23】介護ロボット代理店の苦労
【No.22】ロボットビジネスのセグメント化
【No.21】「ニーズの違い(バラツキ)」とイベント企画
【No.20】施設が補助金に飛び付く前にやるべきこと
【No.19】施設にとってロボットの導入で最も重要なことは?
【No.18】ロボットをロボットとして見ているだけでは?
【No.17】ロボット市場への参入は凶と出るか吉と出るか?
【No.16】ロボットセミナーの開催で判明した顧客のニーズ
【No.15】潜在顧客から見た見守りロボット
【No.14】介護ロボットは6年前より増えたが、その一方【No.13】見守りロボットは是か非か?
【No.12】介護ロボットを活用する直接的なメリット
【No.11】ロボットに頼らない活用方法は?
【No.10】施設の介護ロボット選定の実態は?
【No.9】介護ロボット市場の開拓には?
【No.8】補助金政策による光と影
【No.7】補助金のメリットとデメリットは?
【No.6】自治体支援策の特徴は?
【No.5】ハードだけではなく、ソフト面も必要では?
【No.4】介護現場にロボットを導入するための要件は?
【No.3】なぜ、「普及はまだまだ!」なの
【No.2】介護ロボットの認知度は飛躍的に高まったが
【No.1】介護ロボットの普及を電子カルテと比べると