介護テクノロジーの事業化を支援し、高齢社会の課題解決に貢献する

介護ロボット経営実践会

  

介護テクノロジー市場の着眼点(No.71)

公的支援の「成功」と、企業の「成功」は同じではない

介護テクノロジーを「事業」にするために考えるべきこと

2026年 9月2日(水

【キーワード】

  • 介護テクノロジー
  • 公的支援
  • 事業化
  • 市場参入

こんにちは、関口です。

No.49のコラムでも取り上げた通り、2024年5月、『週刊東洋経済』で「溶ける地方創生マネー 喰われる自治体」というタイトルで特集が組まれました。

地方創生の名のもとに多額の公的資金が投入される一方、その資金は本当に地域の活性化につながっているのか。公金が調査や計画策定などを請け負う都市部のシンクタンクやコンサルティング会社に吸い上げられ、「地方創生」という事業そのものが彼らにとっての「餌場」になっているのではないか。そんな問題を投げかける内容でした。   

私はこの記事を読んだとき、2010年から関わってきた介護テクノロジーの世界にも、どこか似た構造があるのではないかと感じました。

介護人材不足への対応や新産業の育成を目的として、介護テクノロジーには国や自治体から多くの予算が投入されてきました。製品開発、ニーズ調査、実証、効果測定、介護施設とのマッチング、普及啓発など、さまざまな事業が公費によって行われています。

最近では、厚生労働省が令和9年度概算要求で、「介護テクノロジー導入・協働化・経営改善等支援事業」に240億円を要求しています。この中では、見守り機器や介護記録ソフト、インカムなどの導入を集中的に支援する方針も示されています。

私自身、市場の黎明期から自治体の介護ロボット普及事業などに携わってきましたから、公的支援の意義は十分理解しています。

その一方で、長くこの分野を見ていると、「この調査は本当に必要なのだろうか」「事業を実施すること自体が目的になっていないだろうか」と疑問を感じることがあったのも事実です。

ただし、今回考えたいのは、公的支援の是非ではありません。

公的事業が目指す成果と、民間企業が事業として目指す成果は必ずしも同じではない。

今回は、この違いについて考えてみたいと思います。

 

介護テクノロジーの普及を目的として、これまで国や自治体ではさまざまな事業が行われてきました。

介護施設のニーズを調査する。メーカーと介護施設をマッチングする。実際に機器を使ってもらい、その効果を測定する。結果を分析し、報告書や事例集としてまとめる。

こうした取り組みには、それぞれ意味があります。

しかし、公的資金が継続的に投入される分野では、行政の縦割りなども相まって、似たような事業が全国各地で繰り返されることがあります。

調査を行い、実証を行い、報告書をまとめる。その仕事をシンクタンクやコンサルティング会社などが受託する。そして翌年度には、別の地域で、また似たような事業が行われる。

もちろん、受託する企業が悪いわけではありません。発注された業務を仕様書に沿って遂行し、成果物を納品することは正当な仕事です。

私が気になるのは、いつの間にか「何を変えるために事業を行うのか」よりも、「事業を実施すること」「予算を執行すること」そのものが目的になってしまうことはないのかという点です。

ただ、介護テクノロジー市場へ参入する企業にとって、本当に重要なのは、公的事業のあり方を論じることではありません。

行政と企業では、そもそも目指しているゴールが違う。

企業側は、このことを理解しておく必要があります。

では、企業は何を考えなければならないのでしょうか。

そこから先は、極めて現実的な「商売」の話になります。

  • 誰に売るのか。
  • 介護施設の誰が購入を決めるのか。
  • どのような「価値」を訴求すれば購入してもらえるのか。
  • どのような価格なら受け入れられるのか。
  • どうやって販売し、最初の導入事例を次の受注につなげていくのか。

そして、可能なら補助金に依存することなく、継続的に売上と利益を生み出せる仕組みをつくっていく。

ここまで考えて、初めて「事業化」への道筋が見えてきます。

もちろん、公的支援には大きな価値があります。特に資金力のない小さな介護ベンチャーにとっては、なくてはならない存在です。ただし、公的支援を活用することは、事業をつくる一過程にすぎません。

実証などを通じて得られた知見を製品や提供価値の改善につなげ、次の顧客を開拓し、販売を広げていくことは、企業自身が担う仕事です。

もっとも、異業種から介護テクノロジー市場へ参入する企業が、最初から必要な経験や機能をすべて持っているとは限りません。

市場について分からなければ、その市場に詳しい人の力を借りる。介護施設との接点が足りなければ、公的支援や外部のネットワークを活用する。販売や市場開拓の経験が不足していれば、外部の力で補う。

経験のない市場へ入っていくのであれば、「水先案内人」のような存在を活用することも一つの方法です。

大切なのは、公的事業への採択や実証そのものをゴールにしないことです。

「この取り組みが終わった後、誰がこの製品を買ってくれるのか。どうすれば次の顧客へと広げ、継続的に売上と利益を生み出せるのか」

公的支援も上手く活用しながら、その先の事業をどうつくるのか。そこまでを見据えて取り組むことが、企業には求められているのではないでしょうか。

 

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プロフィール

2010年から介護テクノロジー分野に携わり、企業・行政・介護施設など、さまざまな立場の関係者と実証・導入・普及に関わってきました。現在は、その経験を活かし、企業の市場参入から事業化までを支援しています。

介護テクノロジー分野での活動実績

・講演
・自治体
・メディア
・実証支援
など