介護テクノロジーの普及と定着を通じて、高齢社会の課題解決に貢献する

介護ロボット経営実践会

  

介護テクノロジー市場の着眼点(No.69)

なぜ新規事業は売れないまま終わるのか?

~多くの企業が見落としている「現場理解」という問題

2026年 6月18日(木

【キーワード】

  • 新規事業
  • 市場調査
  • 顧客理解
  • 介護テクノロジー
  • 事業開発

私はこれまで、介護ロボット・ICT分野だけでなく、いくつかの業界で新規事業の立ち上げ支援に携わってきました。

その中で感じることがあります。

それは、「新規事業について、立ち上げること自体は、それほど難しくない」ということです。

例えば、

  • 商品を仕入れて販売を始める
  • ホームページを作る
  • 営業資料を作る
  • 展示会に出展する

こうしたことは、やろうと思えば比較的容易に実施できます。

しかし実際には、短期間に事業から撤退してしまう企業が少なくありません。会社名は述べませんが、介護テクノロジー分野においても過去10年、15年の間に多くの企業が撤退しました。

中には1円の売上すら作ることなく「止めた」と経営判断を下す事業者もあります。では、なぜそのようなことが起こるのでしょうか。

もちろん、

  • 営業力が不足している
  • 商品力が弱い
  • 価格競争に巻き込まれた

など、さまざまな理由はあります。

私は、多くの企業が営業力不足を原因として挙げますが、実際にはその前段階であるリサーチ不足に問題があるケースが少なくないと考えています。

今回は、多くの新規事業が失敗する背景にあるリサーチ不足について、私の経験をもとに整理してみたいと思います。

新規事業を検討している企業から、「調査はちゃんと行っています」という話を聞くことがあります。

しかし、実際に内容をよく調べてみると、

  • 競合製品の機能比較
  • 価格比較
  • ホームページの内容整理
  • カタログ情報の一覧化

といった内容をワードやスプレッドシートにホームページなどから転記し、まとめて終わっているケースが少なくありません。もちろん、これらは必要な作業です。

しかし、それだけで市場を理解したことにはなりません。

なぜなら、それは競合企業を断片的に調べているだけであって、顧客や現場を調べて市場のメカニズムを理解しているわけではないからです。

実際のところ、潜在的な顧客が何に困っているのか、なぜその課題が解決されていないのか、どのような条件ならお金を払うのか、といったことは、競合のホームページやシンクタンクが作成したレポートを眺めているだけでは見えてきません。

にもかかわらず、調査そのものが目的化し、立派な比較表(資料)を作ることに満足してしまう企業担当者は少なくないのです。

私が支援してきた企業を見る限り、新規事業で成功する企業ほど現場をよく見ています。現場に足を運んでいました。

逆に、市場開拓に苦戦する企業ほど、現場をよく調べる前に走り出す傾向があります。スピードを重視する企業においても、走りながら考えることは良いことですが、やはり一定以上のリサーチが必要です。

例えば介護業界であれば、

  • この製品は、何に困っている介護職員に、どのように役立つのか
  • 利用者には何の価値を提供するのか
  • 経営者、あるいは現場の責任者は、購入に際して何を重視しているのか

こうした理解がしなければ、本当に必要とされる商品やサービスは見えてきません。機能面で優れていても、市場が求めているものではなければ売れないのです。

そんな中、

  • 展示会でいい話を聞いた
  • インターネットで調べた
  • 業界レポートを読んだ

だけで、市場を理解したつもりになっているケースも少なくありません。中には、資料作成そのものが目的化してしまい、現場理解に全くつながっていないケースもあります。

もちろん、調べることも資料を作成することも必要です。しかし、それは「現場との突合せ」を肌で感じることとは大きく異なります。

私が支援した企業の中には、介護市場への参入を検討するために、何度も介護施設へ足を運んだ上場企業がありました。

その企業は、

  • 1~2回見学して終わり
  • 担当者1人だけが訪問

というレベルではありません。

関係者全員が何度も施設を訪問し、実際の業務の流れや職員の声を確認しました。

そして、5回、6回…と現場をよく調べ上げた結果、

「今は介護ロボ市場への参入を見送る」という判断を下しました。

一見すると消極的な判断に見えるかもしれません。しかし私は、これは非常に合理的な判断だったと思います。

なぜなら、市場の実態を理解しないまま参入し、人件費や展示会出展など大きな投資をした後に撤退するよりも、事前に必要なリサーチを行い、リスクを把握した上で「止める」と判断する方が、はるかに健全だからです。

新規事業は、アイデアの仮説から始まります。

しかし、その仮説が正しいとは限りません。

むしろ、

  • この技術はスゴイ!きっと需要があるはずだ
  • 競合がいるから市場があるはずだ
  • この機能なら評価されるはずだ

という売り手に都合の良い思い込みによって失敗するケースの方が多いのではないでしょうか。

実際に現場へ行くと、

  • 思ったほど困っていない
  • 別の方法で解決している
  • そんな機能を求めていない
  • 評価する人とお金を払う人が違う
  • こんな大金ではなかなか買い手が見つからない

といったことが見えてくることも少なくありません。

つまり、新規事業において最も重要なのは、自社の仮説を証明することよりも、むしろ自社の仮説を疑うことではないでしょうか。

私はこれまで、多くの新規事業の立ち上げを見てきました。その経験から言えることは、

「市場参入の初期段階で撤退してしまう事業者の多くはリサーチ不足である」ということです。

特に介護テクノロジー市場では、

  • 現場の課題
  • 利用者の実態
  • 施設経営の考え方

を理解しないまま参入すると、思わぬ壁に直面することになります。

そのため、机上での競合分析や市場レポートの確認だけではなく、実際に現場へ足を運び、自分の目で見て、自分の耳で聞くことが重要です。

新規事業の成否は、商品開発や営業活動を始める前の「現場理解」で、ある程度決まってしまうのではないでしょうか。

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