介護ロボットの着眼点(No.45)

補助金が、自主性や積極的な改革の意識をダメにする?

~介護ロボット市場を支える矛盾とは?~

2023年 4月14日(金)

【キーワード】

  • 補助金
  • 参入障壁
  • モノに対する補助金
  • ポンプの役割

前回のコラム掲載から約3年が経過しました。先日、ある方のYouTube動画を視聴したところ、私が以前から感じていたことが指摘されていることに気づきました。その動画に触発され、久しぶりにコラムを執筆することにしました。たまにしか掲載しないため、少し長めになってしまいましたが、ご了承ください。

私が視聴した動画には、長野県塩尻市の財政に関する説明がありました。塩尻市では、収入が216億円に対して支出は350億円とのこと。このように支出と収入に大きな差がある場合、企業であれば破産しますが、役所の場合は地方交付金という形で国や県からの補填があり、破産を回避できるとの話でした。

このYouTuberの方は、たまたま塩尻市の財政を例に挙げて話されていましたが、日本では国の予算に占める地方交付税の割合が約15%もあるとのこと。これは諸外国のそれよりも極めて高い水準です。

地方自治体が自主的に改革する意欲が低い背景には、補助金を当て込んでしまい、自分たちの力で財政を立て直そうとしてこなかったことに問題があるという主張でした。

また、このYouTuberの方は、動画の中でIT業界から介護業界に転身した味岡さんという塩尻在住の友人へのインタビューを紹介していました。インタビューの中で味岡さんは、「介護業界はIT業界の正反対の文化だ」と指摘していました。補助金については、姿を変えた規制になっており、新規参入の障壁になっていると述べていました。

味岡さんは入浴介助の機器を開発したそうですが、「福祉用具として登録され、補助金が出る商品とは競争にならない。これでは自由競争が生まれない」と問題点を指摘していました。

「言い方は悪いが」と断りながらも、「介護はまるで社会主義経済を象徴した業界だ」と、味岡さんは表現していました。

味岡さんが指摘した内容は、10年以上前に私が介護業界と初めて関わった時に痛感した内容と共通点が多いと感じました。また、介護分野の中でもロボット関連の政策を見る限り、補助金の使い方については問題が多いことを前々から感じていました。

以前のコラムでも指摘したように、補助金が市場参入の障壁となり、自由競争を妨げていることがあります。ロボットの新参者は味岡さんが経験したことと同じ問題に直面します。

例えば、自治体が補助金対象の機器(ロボット)を指定することもあります。その結果、補助金の「対象外の機器」は、買い手側の選択肢に入りません。レストランでメニューに記載がない料理を注文する客がいないのと同じことが起こります。

以前のコラムでも指摘したように、「補助金対象の機器リスト」に載らない限り、買い手からその機器は選択されないため、売り手の企業は市場から取り残される可能性があります。

さらに、自治体の政策は横並びになる傾向があり、ある都道府県において「補助金対象になったという実績」は、他の自治体での採用に有利に働きます。また、実証事業などでも採用されやすくなります。結果として、補助金対象外の機器は、どこかで早々にチャンスを掴まない限り、時間の経過と共に、市場でさらに取り残されていくことになります。

私は1つ前のコラムで、既存の「モノに対する補助金」の問題点を指摘しました。

例えば、介護施設には、機器の活用に際して職員の教育が必要なケースがよくあります。パソコン入力が苦手な職員には、パソコン教室で行うような操作方法に関する研修を受ける必要があることでしょう。

また、業務改善やプロジェクトマネジメントのノウハウがない施設に、モノだけを与えても、上手に活用してもらうことは難しいはずです。それらについても教育や研修を行わなければ、導入した介護ロボットやICTが上手く生かされないことが多々あります。

そのため、「モノに対する補助金」にとらわれず、介護ロボットの導入・活用面において、モノの購入以外の目的でも柔軟に使えるようにした方が良いと考えています。施設が「ウチは〇〇にお金を使おう」と判断し、計画したことを実行に移すに際し、資金面で補助してあげるということです。

具体的には、導入前の教育や研修など、モノの購入以外で施設にとって必要な支援に補助金を充てることができます。外部の講師を施設に呼ぶ、あるいは、職員をセミナーに参加させるようなことにも補助金が使えるようにしてあげれば良いのです。

また、機器を選ぶのは施設の方であるべきにも関わらず、「このリストの中から選びなさい」といった縛りや、特定の機器に自治体からお墨付けを与える(つまり、他の事業者に対する排他的行為)は止めるべきです。

介護業界に限らず、さまざまな業界では補助金によって多くの問題が起きています。補助金があることで、参入障壁が生じ、差別される要因にもなります。

また、補助金制度があると、人々は補助金を前提に考える傾向があります。その結果、あらゆることを補助金の範囲内でしか検討しなくなることがよくあります。発想が限定されてしまうのです。

介護施設においても同様の問題が起きています。補助金対象の機器だけを選ぼうとする傾向になり、施設の必要性や特性に合わない機器が導入(選択)されることになります。その結果、有効に活用できるはずの機器が生かされないことになるのです。

さらに、自治体の政策では、補助金を使い切ることが目的になっていることが多く、それが原因で問題が生じることがあります。補助金の目的は、必要な支援を必要とする施設の一助であるべきですが、現状ではその目的から逸脱してしまっているのではないでしょうか。

補助金制度のあり方を見直し、施設が本当に必要とする支援に対して、機器の購入だけではなく、より柔軟に補助金を利用できる制度として政策を検討する必要があると言えます。

このコラムの冒頭では「補助金を当て込んでいたために、地方はいつまで経っても自分たちの力で稼げるようにならなかった」とYouTuberの方が嘆いていたと述べましたが、同じことが介護ロボットの補助金についても起きていると考えています。

かれこれ10年くらい前の話になりますが、私はある人から「補助金はポンプの役割を担っている」という説明を受けました。(介護ロボットの)新しい市場を創出するに際し、最初は誰も買おうとしないので、買い手が購入へと向かうよう背中を押すポンプの役割を果たすのが補助金であるという理屈でした。

しかし、最初の数年だけならそれでも良かったのですが、補助金制度が恒常的になってしまい、おまけに自治体では1~2年毎に担当者がコロコロと変わるため、あまり進展がないまま、同じような事業(施策)を毎年、惰性的にくりかえしているように私には見えるのです。

地方が地方交付金を当てにした「与えられた状態」から「稼げる地方」へと変わっていく必要があるのと同じように、「今年もぜひ使ってください」と毎年のように補助金に依存した機器の購入を促すだけでなく、補助金がなくても積極的・主体的に購入へと向かっていく施設が増えていくよう、戦略的に政策を検討すべきではないでしょうか?

このような課題を解決するためには、やはり補助金制度のあり方から見直す必要があると考えています。補助金制度には、開発企業の導入障壁とならず、本当に必要な機器が施設に導入されることが求められています。

また、介護ロボットの普及には、買い手も売り手も補助金(公金)に依存するのではなく、事業者が主体的に取り組み、市場の成長を促し、その結果として高齢化に伴う社会問題を解決していく仕掛けが必要でしょう。

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