介護予防教室と呼ばれる地域に住む65歳以上のすべての高齢者を対象にしたサービスがあります。これは市町村の「一般介護予防事業」の一環として行われています。一般的には、体操教室をイメージされる人が多いと思いますが、脳トレ体操やウォーキングなども実施されています。
さらに、運動に限らず、認知症予防や栄養・口腔ケアに関する講座など多様なプログラムが市町村によって提供されています。ただし、各市町村によってプログラムの重点や内容が異なります。
今年は、残すところ1週間となりましたが、ある企業を支援するために、一般介護予防事業に関するさまざまな課題を市町村の担当者に直接、確認する機会を得ました。これらの課題について、大きく「集客」「企画」「運営・人材」「効果測定」と4つのカテゴリに分類し、それぞれの問題点を洗い出しました。以下に詳しく紹介します。
まずは集客面に関する問題が挙げられます。市町村の担当者から「参加者がなかなか集まらない」という意見が多く寄せられました。特に、2020年のコロナ騒動は大きな影響を与えたようです。この騒動でビジネスの世界においてオンラインの会議やセミナーがかなり普及しましたが、高齢者向けのプログラムについては、いまだにオフラインでの開催が主流となっています。
特定の場所に、特定の日時に集合しなければならない形式で開催される場合、交通手段が限られている人には参加のハードルが高いです。また、「男性の参加が少ない」または「参加者が固定化し、同じ人ばかりが参加している」という問題も多くの人から指摘されました。つまり、いつも同じような女性のグループがやってくる一方、男性陣に対して魅力的なプログラムが提供できていないようです。
このような問題に直面する要因として考えられるのがプログラムの「企画」です。これが2つ目のカテゴリとなります。
体操教室などは、他の人たちと同じ空間で同じ動作をすることになりますが、これが一部の高齢者にはストレスとなり、苦痛をもたらすと考えられます。つまり、プログラムが固定化・マンネリ化している上、選択の余地がなく、一部の参加者には必ずしも楽しめない状況につながっているのです。「つまらない」「2回目は遠慮しよう」などと思われてしまっているのでしょう。
やはり、同じ市町村に住んでいる高齢者とはいえ、ニーズは多様化しているので、それに応えるようなプログラムを提供する必要があるのではないでしょうか?
さらに、空白の時間が上手く活用できないという問題も指摘されています。これは、ひとりになった時にはできないということです。あるプログラムに参加しても、次の機会が提供されるまで何もできないのです。
教育・指導スタッフの不足についても指摘されています。これは参加者との適切なコミュニケーションや、正しい運動やトレーニング方法の提供に影響を及ぼすことにもなります。
特に、高齢者にはICT(情報通信技術)機器に不慣れな人も多いため、その使用方法を個別に教えてあげないと、前進が期待できないかもしれません。IT技術から取り残される市民に対する対策も必要ですが、スタッフが不足していると、利用者が新しいデバイスやアプリケーションにチャレンジする機会が限定されてしまいます。
次に、効果測定面における課題が挙げられます。一般介護予防事業のプログラムは参加者の生活や健康に大きな影響を与える可能性がありますが、その効果を客観的に評価しない限り、改善することができません。また、参加者は「達成感が得られない」「やりがいが感じられない」といった状態になりがちです。
さらに、一般介護予防事業を実施する市町村には、適切な評価指標がなく、成果を定量的に測定することができていません。今回、私が行った調査のように、一部の人から声を集めることはできますが、今の状況下ではプログラムの改善や新たな提案を行うことが難しく、PDCAサイクルを適切に回すことができないのです。より効果的なプログラムを構築するための失敗と学びが得られないということです。
これでは手段にすぎないプログラムの実施が目的になってしまいかねません。つまり、一般介護予防事業を推進するにあたり、「体操教室を●●地区でも開催しました」ということが成果であるような事業になってしまいかねないのです。
地域の介護予防教室など介護予防関連の事業が直面する問題を克服し、より良いサービスを提供するためには、具体的な「仕組み」が必要です。
これについては、最先端のテクノロジーを活用すれば課題が解決するわけではありません。理想の状態へと達するためには一定以上の教育も必要ですが、それを担う人やその調達を可能にしてくれる組織の存在も不可欠です。また、前述の通り、地域住民の多様なニーズに応える必要があり、当然ながらこれまで振り向いてくれなかった男性陣を魅力するようなメニューの用意も必要でしょう。
さらに、効果測定面の課題を解決するためには「見える化」が重要です。手動での作業(記録)では面倒ですが、このような業務においてテクノロジーを上手に活用することが求められます。目標設定や定量的・定性的な評価指標の策定、PDCAサイクルの確立も必要です。
現在、これらの課題に対処するため、私は「これは素晴らしい!」と考えている「仕組み」を一部の市町村に提案するための準備を、とある企業と共に進めています。それは、これまでのように行政側が用意した、しかも日時まで指定されたプログラムの中から住民が選ぶという運営スタイルとは異なります。仕組みは行政側が用意するのですが、詳細(テーマ)は住民側が決めることになります。原則、住民主導なのです。また、ツール(テクノロジー)はその仕組みを動かすための要素の一つにすぎません。
なお、全く新しい仕組みを提案しようとすると(受け入れ側である自治体にとって)採択のハードルが高くなってしまいます。そこで、私の案は既存の事業に便乗しつつ、既存の別の事業の制度を上手く活かす方法なのです。まさに住民主導の地域包括ケアの実現を目指すのです。
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