5分でわかる介護ロボット市場のポイント

最終更新:2019年12月

はじめに

このページでは「5分でわかる介護ロボット市場のポイント」と題して、下記の通り6つのカテゴリーに分けて紹介しています。介護ロボット市場にはさまざまなステークホルダーがいますが、このページは販売事業者向けに市場の全貌を説明します。

介護市場に販売事業者として新規参入したい

  • 今、介護分野に限らず、さまざまな分野でロボットの活躍が期待されている。

 

  • ロボットは「産業用」と非産業用の「サービス用」の大きく2つに分類できる。
  • 「サービスロボット」には、医療、介護・福祉、清掃、受付・案内、教育、レスキュー、家事支援などがある。「介護ロボット」は「サービスロボット」の1つに分類される。

  • 今後、ロボット産業が成長していく中でも特にサービスロボット市場の伸びが期待されている。産業用ロボットの市場はまだ伸びていくが、サービスロボット市場は2030年頃までに産業用ロボットを凌ぐ規模にまで成長すると期待されている。

 

  • サービスロボット市場がロボット産業全体(市場規模:8,600億円/2013年)に占める割合は、2013年の時点ではわずか7%(600億円)に過ぎなかった。経済産業省・NEDOが発表した資料によると、これが2020年には36%(1兆円)、そして2025年には50%(2.6兆円)とロボット産業全体の半分を占めるまでに成長すると試算されていた。
  • 日本の介護分野を取り巻く状況は、「高齢化」「介護人材の不足」というキーワードで括ることができる。

  • 高齢化率は上昇を続け、2020年には29%、2025年には30%を超えて、2060年には約40%に達する見込み。

  • 2000年に介護保険制度がスタートしてから介護職員の数は毎年増えてきた。今後も増加していく。しかし、今のまま増え続けても、人材の需要と供給には2025年に約30万人、2035年には68万人ものギャップが生じると試算されている。

  • 慢性的に人手不足に悩まされているのが介護業界。今後、労働力人口が減っていくこともあり、問題はさらに深刻化していく。そこで、1)高齢者や女性を活用する、2)外国から労働者を連れてくる、3)ロボット技術を活かす、4)業界のイメージアップを図る、などの取り組みを通じて解決しようとしている。

 

  • 「介護分野の課題解決」だけではなく、「新産業の育成」という理由からも介護ロボットには大きな期待が寄せられている。介護ロボットは、ロボットとして「産業振興的」な側面があるが、一方で介護という「高齢福祉的」な側面を持ち合わせている。ロボットという表現は必ずしも介護現場に歓迎される用語ではなかったが、産業促進側の思惑もあり「ロボット」という表現が定着した。

  • 介護現場は「ロボットありき」ではない。介護現場に求められていることは課題の解決である。介護業界の恒常的な課題は人材確保。景気が良くなると、人材確保が困難になる。

 

  • 介護現場では先端機器よりも実用的なモノ(ロボット?)が求められている。介護分野が直面する課題を解決するための一つの選択肢として「介護ロボットの活用」があるのだが、一方で「新産業の育成」という面からの期待がとても大きい。
  • 国や自治体では、介護ロボットの普及に向けてさまざまな支援策を打ち出してきた。

  • 国では主に経済産業省および厚生労働省が介護ロボット普及の旗振り役を担っている。第二次安倍内閣の成長戦略では、2013年(平成25年)6月に「日本再興戦略」が閣議決定された。日本再興戦略では、「ロボット介護機器開発5ヵ年計画」が盛り込まれ、成果目標が設定された。その一つがロボット介護機器の市場規模を2020年に約500億円、2030年に約2,600億円にするとのこと。

  • 経済産業省と厚生労働省では幅広い製品群が対象となる介護ロボットに対して重点分野を定めて開発支援を行っている。当初の重点分野は5分野8項目であった。1)移乗介助機器(装着型)、2)移乗介助機器(非装着型)、3)移動支援機器(屋外型)、4)移動支援機器(屋内型)、5)排泄支援機器、6)入浴支援機器、7)見守り支援機器(介護施設型)、8)見守り支援機器(在宅介護型)、であった。

 

  • 平成2910月、経済産業省と厚生労働省は、ロボット技術の活用により高齢者等の自立支援を実現するべく、「ロボット技術の介護利用における重点分野」(平成2411月策定、平成262月改訂)を改訂。「1分野5項目」が追加され、合計6分野13項目となった。ちなみに、新しく追加された分野は「介護業務支援」。これは「ロボット技術を用いて、見守り、移動支援、排泄支援をはじめとする介護業務に伴う情報を収集・蓄積し、それを基に、高齢者等の必要な支援に活用することを可能とする機器」と定義されている。

  • 国や自治体は単年度単位で予算が編成される。それに合わせてさまざまな事業の政策が立案される。事業(支援策)の名称はそれぞれ異なるが、介護ロボットの普及に向けた国や自治体の支援策は、1)開発支援、2)試験導入・実証実験、3)購入補助、4)リサーチ、5)普及推進活動、と大きく5つに分類することができる。

 

  • 産業育成という政策面において、ロボットメーカー向けの開発支援メニューは以前から豊富にあった。しかし、厚生労働省の平成27年度補正予算として約52億円が投入された「介護ロボット等導入支援特別事業」による全額を補助する事業の後は、介護施設に対するロボットの購入補助の制度が充実してきた。また、この特別支援事業を機に多くの企業が販売代理店として介護ロボット市場に参入してきた。

 

  • 地域医療介護総合確保基金を充てた補助制度が都道府県単位で平成27年度から毎年実施されている。当初は補助の限度額が1台に10万円、それが平成30年度には30万円に増額された。

 

  • 普及推進活動には、介護ロボットの展示・説明会をはじめ、活用現場の公開・体験会などさまざまな取り組みが該当する。一部の自治体では将来の介護人材確保の目的で、社会人のみならず子供に対して介護ロボットを知ってもらう取り組みを行っている。

 

  • 最近では全国各地で「介護ロボットフォーラム」が開催されている。内容は、神奈川県では2010年から、その後、東京都、宮城県など各都道府県の高齢福祉部門がそれぞれ音頭を取って開催してきたイベントと同じある。各地で個別に個性を出しながら行ってきた普及・啓発のイベントが、厚生労働省の「介護ロボットの普及拠点事業」の一環として画一的なスタイルで全国47都道府県で行われるようになったとも言える。

 

  • 開発の支援に関しては、介護ロボットのシーズ・ニーズ協調のための協議会が全国に設置されるようになった。目的は、開発前の着想段階から介護ロボットの開発の方向性について開発企業と介護現場が協議し、介護現場のニーズを反映した開発の提案内容を取りまとめるため。このように、一方通行な開発ではなく、開発の初期段階から現場の声を反映させる取り組みが活発化してきた。

 

  • 介護ロボットには大きく2つの市場が対象となる。施設向けと在宅向け。行政がこれまで普及に力を入れてきたのは、あくまで施設向け。在宅向けに関しては、各企業によってAmazonサイトで販売する、あるいは、新聞に半5段の広告を出稿するなどの取り組みが行われている程度である。行政は施設向けに力を入れているが、普及には時間が掛かっている。

 

  • 介護ロボットとよく比較されるのが福祉用具。こちらは個人が介護保険を使ってレンタル、あるいは、購入する。ケアマネジャーと呼ばれる介護支援専門員が認定調査で要介護・要支援と認定された本人に「これはいかがですか?」とおすすめし、業者から(本人が)レンタル・購入するという流れが一般的である。つまり、福祉用具の流通や販促活動にはケアマネジャーが非常に重要な存在を担っている。そのため、福祉用具の貸与事業者はケアマネジャーに対して営業活動を行うことが日課となっている。

 

  • 政府はKPIを掲げ、2020年に500億円規模の市場を創造することを目指している。しかし、成長のスピードは鈍く、今の「成り行きのシナリオ」ではそれを達成できる見込みはなく、達成率は大きく下回るはず。そのためか、上述の通り国は開発に力を入れている。

  • どこと比べるかにもよるが、業界全体のIT化が非常に遅れている。インターネットの使用についても同様である。一般企業では2000年前後には業務でメールを使うことが一般化していた。しかし、介護業界では2010年代に入ってからも手書きやFAXの使用が多く見られた。つまり、技術自体が進化しても利用者の行動変化のスピードがかなり遅い。

  • 介護ロボットの開発については、トヨタ、ホンダなどの大手企業(大手資本)、大学初ベンチャー、起業家(VC資本)、システム系企業などが参入している。「ものづくり補助金」など中小企業向けの補助金も豊富に揃っているため、中小企業も開発事業者として多く参入している。

  • 販売市場には、将来の成長を見越し、大手企業をはじめ福祉用具の貸与事業者、医療機器の販売業者、システムの販売業者、機械・電子部品など工業製品の販売業者などが代理店として新規参入している。

 

  • さまざまな補助金が用意されていることもあり、開発には中小や個人事業主までが参入している。一方、販売事業については一定規模の売上を誇る企業が多くを占める。上述の厚生労働省の購入金額を全額補助する事業が発表された後は個人事業主やサラリーマンまでが代理店として名乗り出るケースがあったが、彼らの多くは後に淘汰されてしまった。

 

  • 産業系から参入してきた企業の多くは「ロボット」という括りで商売(事業ドメイン)を考えており、介護施設(福祉業界)は、売り先(セグメント)の1つという認識であるケースが多い。

  • 業界そのものが介護保険制度の下で動いており公金頼みの事業展開となっていることもあり、国や自治体の補助金を当て込んだ購入が多くを占める。つまり、公費の投入によりモノ(ロボット)が動いている状態であり、補助金に依存した市場形成となっている。

  • 「売り手」も「買い手」も補助金に依存することで「カネ」と「モノ」が動く補助金依存型の市場が形成されている。

 

  • 現在、さまざまな企業が市場参入を検討しており、今後は大手を含め多くの企業の参入が予想される。しかし、市場の伸びがイマイチ、しかも公金頼み。そのためか様子見や、途中で諦めてしまう企業も多い。福祉用具の貸与事業などには、「保険適用の対象になるなら本格的に参入しよう!」「でも今はまだ…」という態度を取る企業も見られる。

  • 今のところ競争が激しい(開発件数が多い)のが見守り系。大手から個人事業主に至るまで多くの企業がさまざまな製品を開発している。一方、ニーズがあるのに、参入事業者が少ないのが装着型の移乗介助。

  • 繰り返すが、現段階は公費により介護ロボット市場が形成されつつある状態である。また、これまでは現場が求めている理想の製品というよりも、むしろ国や自治体の支援事業(補助事業)に採択されたロボットが市場に出回り注目を浴びる格好となっていた。理由は利用する側の情報が限られており、それしか知らなかったから。

  • 介護ロボットがなかなか普及しない問題点は「ロボットの価格がまだ高い!」という点をはじめ多々あるが、課題を大きな一つに絞り込むと”ギャップ”となる。

 

  • 課題については「価格が高い!」「使い勝手がまだイマイチ!」など”作り手”であるロボットメーカーに起因するものが指摘されがちである。しかし、”使い手”となる介護施設に起因する課題も多い。

 

  • いい製品を提供することは当たり前であるが、”使い手”側に起因する問題を同時に解決しながら販売していかない限り、補助金を目当てに今後も事業者が集まるが、成長のスピードは鈍化するではないだろうか?

なお、「普及に向けた課題」については、「よくある質問」ページで詳しく解説しています。

以下は、あくまで関口の個人的な見解です。

 

  • 「福祉用具が高度化した製品」などと介護ロボットを捉えている有識者の意見や福祉用具と同じ感覚で施策を検討している行政の取り組みなどの影響もあり、福祉用具の延長上で将来像が描かれがちである。しかし、5G、IoT、AI、ARなどのテクノロジーの普及により、遅かれ早かれ福祉用具とは大きく異なる世界が広がっていくはずである。

 

  • 収入の大半を介護報酬に頼っている施設は、経営面で公費依存の体質。そのこともあり、国や自治体が購入費をまかなう形で市場が形成されつつあるが、投資という感覚で介護ロボットを購入する施設の割合は少なく、今後も目先の補助金政策に影響されるはず。

 

  • 「売り手」であるメーカーがロボットの機能面や価格面についてさらなる努力をする一方で、施設の方も受身ではなく自ら多少なりともリスクを負うつもりでロボットを活用する経営努力が必要だろう。さもないと、市場が補助金依存型の体質から抜け出せないまま。在宅市場という大きな伸びしろが置き去りにされたまま、施設向けの市場開拓に今後もかなりの時間が掛かる可能性がある。

  • 介護ロボット市場は、大きく3つの市場にセグメント化されていくと予想している。1つ目は、介護保険の給付対象となり福祉用具の延長上に形成される市場。2つ目は、コモディティ化した家電のような市場。ローエンドの製品が対象となる。3つ目は、必ずしも保険に依存しない高価格・高付加価値のハイエンドの製品から成る市場。しかし、それぞれが同じタイミングで成長することはないだろう。

 

  • 最初に成長が見込まれるのは、2つ目のコモディティ化した家電のような市場と予想している。1つ目の介護保険の給付対象となり福祉用具の延長線上に形成される市場については「今のまま」では停滞するのでは? というか、IoTが普及してモノとモノがつながり、ハコモノよりも収集したデータの活用が事業に大きな影響を与えていく環境へと変わっていく中、「福祉用具と同じような制度が、将来の介護ロボットに適用されたとしても、直ぐに廃れてしまうだろう。

 

  • モノとモノがつながり、より多くのデータが入手可能となり、よりデータ利用の可能性が高まるはず。ロボットというハコモノよりも、データを通じた価値をいかに定義できるかが今後の市場における勝負のカギとなるはず。一方で、ハコモノはコモディティ化が進んでいくことが避けられない。ハコモノを横から横へ流してマージンを取る既存の事業展開では生き残りが難しくなっていくだろう。

 

  • 3つ目の高価格・高付加価値のハイエンドな製品については、市場の成長はまだ先になるはず。例えば、求職者支援の市場では、市場がある程度成長したことによってハローワークのサービスではカバーできない枝割れしたセグメント(例:外資系の転職に特化した人材紹介)がいくつも登場した。これと同じような市場形成の道を辿るはず。つまり、高価格・高付加価値のハイエンドな市場の成長はまだ先のことであり、しばらくの間は新規顧客の獲得コストが高くつきすぎて採算に合わないだろう。

 

  • 福祉用具の延長線上に形成される市場については、介護ロボットの「購入」や「レンタル」に介護保険の給付が期待されており、実現すれば時間の経過と共に給付対象の範囲が広がることが期待される。しかし、各方面との調整に時間が掛かるはず。どのタイミングに、どの範囲(機種)まで介護保険の対象になるのか? これが市場拡大のスピードに大きな影響を与える要因の1つになると思われる。

 

  • 介護保険は皆が使えるわけではなく、認定調査を受けて「要介護2」「要介護4」などと認定された人だけが使える制度。社会保障費の財源が限られている中、介護ロボットに費やせる公費は必然的に限られる。そのような点から、福祉用具の延長線上に形成される市場は、制度よって保護される(給付対象の品目以外は保険適用にならないという参入障壁がある)が市場規模の拡大には限界がある。しかも公費の負担(いわゆる手厚い保護)によりロボットメーカーの国内外の市場における競争力を弱める恐れがある。

 

  • 要介護にはならなくても「ちょっと不自由な高齢者」の数は大きく増加する。そこで、コモディティー化した家電のような市場も形成されて、大きく成長していくはず。こちらはまさに玉石混交で熾烈な競争市場となる。しかし、ロボットメーカーの国際競争力が強化されれば、海外市場へ飛躍する足掛かりとなる。

 

  • 流通チャネルに関しては、今のところさまざまな事業者が補助金制度に群がる形で代理店や特約店として名乗りを上げているが、単なるモノ売りでは市場開拓(販売事業の黒字化)が難しい。既存の販売手法に品目を追加する程度のやり方では市場開拓が難しいと思われる。

  • ロボットというハコモノを横から横へ流すミドルマンを演じ、高くなりがちな新規顧客の獲得コストに目をつぶりながらマージンを稼ごうとする既存のやり方なら、やらない(参入しない)方が良いだろう。IoTAIが本格的に普及する時代を迎えるにあたり、使い手である介護施設のオペレーションの構築を支援し、かつ上手にデータを入手し、データを通じた価値を提供するビジネス展開を目論んだ上、これまでにない新しいビジネスモデルで参入する企業に躍進を期待したい。

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