介護ロボットの着眼点(No.44)

介護ロボの普及:国や自治体の補助金政策は何が問題なのか?

~IT導入補助金型から持続化補助金型に変えるべきでは?~

2020年 6月24日(水)

【キーワード】

  • 補助金の交付
  • セミナーや研修会の開催
  • モデル施設事業
  • 導入ありき
  • 補助金政策のあり方

新型コロナウイルスの感染拡大が広がり、国や自治体からさまざまな給付金や補助金が予算化されました。これは現在も進行している話ですが、既に兆円単位のとてつもなく大きな金額(公費)が使われる事業が予算化され、一部は執行されました。また、持続化給付金や雇用調整助成金を発端として露呈した問題をはじめ、これまで表沙汰にならなかった公金絡みの実態がいくつも明らかになり、メディアを騒がすことになりました。

それは国や自治体の政策には上手くいかないものが少なくないことだけではありません。行政が特定の民間事業者とズブズブの関係にあること、出来レースの委託事業が多いこと、それに国から地方に配られる交付金などを目当てに、「提言」と言ってハイエナのように寄ってくるシンクタンクの存在など、公金を取り巻くさまざまな醜態が新型コロナの騒動を機に私たちに知ら(暴露)されることになりました。

介護ロボットの普及に関しても、国や自治体からかなりの公金が出ていて、大なり小なり上に書いた問題を私は目にしてきました。ただ、本日はこのようなことを指摘するのではなく、もっと前向きな話をします。

そこで「介護ロボットの普及:国や自治体の補助金政策は何が問題なのか? ~IT導入補助金型から持続化補助金型に変えるべきでは?~」と題して、まずはこれまでの補助金政策を振り返ります。その後、「IT導入補助金型から持続化補助金型に変えるべき」という内容を紹介していきます。

これまで国や自治体では、メーカーに開発費を補助するだけではなく、施設に対して購入費を補助する施策を積極的に行ってきました。施設向けの支援は、一見するとごちゃごちゃしていますが、整理してみると大きく2つ(3つ?)のステージに分けることができます。

下図の通り「啓蒙・購入補助」とショールーム的な「モデル事業(施設)」の2つのステージとなります。

「啓蒙・購入補助」の第一ステージとは?

最初の第一ステージは介護ロボットの「啓蒙・購入補助」に力を入れる段階です。この段階における取り組みは主に2つありました。

1つは「補助金の交付」です。多くは地域医療介護総合確保基金(介護分)を使って実施されました。当初は1機器につき導入経費の2分1(上限10万円)でしたが、後に上限が30万円に増額されました。もちろん地域医療介護総合確保基金(介護分)がスタートする前から独自の補助制度をスタートさせていた自治体もいくつもありました。

もう1つは啓蒙を目的とした「セミナーや研修の開催」です。「介護ロボット導入・活用セミナー」などのタイトルで開催されました。私も神奈川県や埼玉県で開催側の事務局としてイベントをいくつも企画・運営しました。また全国から何度も講師としてお招きいただきました。

これらの多くは「講演・セミナー・ディスカッション」と「介護ロボットの展示」で構成されていました。内容、開催回数、時間、登壇者とのディスカッションの有無、展示ロボットの有無や数などに違いがありますが、介護ロボットの活用について「知ってもらう」「知識を得てもらう」という目的で開催された点は共通していました。

このように第一ステージにおける事業は主に2つあるのですが、片方だけ(特に、補助金の交付)に取り組んだ自治体もありました。また、セミナーの開催と補助金の交付タイミングを上手くリンクさせてスケジュールを組んだ自治体がある一方、同じ都道府県内での開催にも関わらずセミナーの開催と交付金の給付を担当する委託事業者や自治体内の担当部署が異なる場合は、縦割り運営となり別個に企画・運営されるケースもありました。

第二ステージはショールームとしての役割

第二ステージは一般的に「モデル事業」と呼ばれる取り組みです。介護ロボットの活用現場を見て学んでもらうことを目的に、一度に2~6機種ほどの介護ロボットを複数の施設に導入し、活用してもらう取り組みです。モデル施設において、公開見学会を何回か開催し、ショールームの役割を担っていた点はどこも共通していました。

だだし、細かな運営面には相違がありました。施設が補助金を使って決まった機種を導入する点は同じでも、中には導入前に特定の事業者からコンサルティングを受けることが条件となっている事業がありました。後に開催される事例発表会に協力することが条件であったケースもありました。また、ロボットの調達先となる販売代理店が指定されていた(そこの指導下で導入・活用する)こともありました。

なお、「第二ステージ」の取り組みにおいては、一部の例外を除き「補助金の交付」と「セミナーの開催」という第一ステージの取り組みが包含されているケースが殆どでした。そのため、介護ロボットの普及活動をいきなり「第二ステージ」から始めた自治体もありました。

例えば、私が実行部隊の責任者として活動した平成22年度(2010年度)の神奈川県事業です。10年前の取り組みでしたが、当時は「ロボット(機種)選び」の後に、それらを導入してくれる施設探しを行いました。

2010年に始まった神奈川県の取り組みはその後、全国へと広がっていき他の都道府県が同じようなスキームで事業を始めました。今では全ての都道府県が既述の「第一ステージ」あるいは「第二ステージ」に相当する活動を行ったと思われます。

蛇足ですが、中には「第一ステージ」の「補助金の交付」だけを行った自治体があります。失礼ですが、これは最も上手くいかない愚策であると私は考えています。最低でもセミナーや研修とセットで「補助金の交付」を行わない限り、せっかくの補助金が生かされることなく、単なるバラマキで終わってしまうからです。

第三ステージは未達

次に、「第三ステージ」では…と伝えたいのですが、まだその領域に達していません。せっかく第二ステージまで到達したにも関わらず、その先の事業展開が見えないため、再び第一ステージの取り組みに戻ってしまうケースが見られました。

また、介護施設向けのセミナーや研修の開催方法を見直し、ロボット導入状況(活用の度合い)によってメニュー(開催回数)を増やした(クラス分けした)自治体もありました。

ロボットという呼び方を変え、対象をICTやIoTにすり替えて同じ取り組みを繰り返すケースも見られました。

さらに、せっかく施設向けの支援を始めたのに、ニーズ・シーズマッチングの開催など支援の対象を開発側にシフトしてしまったケースもありました。

神奈川県事業のスタートから10年が経過しましたが、残念ながらどこもまだ「第三ステージ」へとコマを進むことができていないのです。

さて、補助金政策の振り返りの話が長く続きましたが、ここからようやく本題に入ります。

介護施設向けの支援については「第一ステージ」「第二ステージ」と大きく2つに分けることができると述べましたが、これまでの支援では「あること」が全てに共通していました。私はそこに問題があると考えているのです。

共通していたことは「モノに対する補助金」だったということ。もっと正確に表現すると「機種までも指定された補助金」だったのです。

ある特定の機種を購入することを条件に補助金が交付されていたのです。これは特定のメーカーを支援することが目的なら良い方法です。しかし「買い手」あるいは「使い手」の視点で考えると、「選択肢が限れており、導入ありき」の発想になりがちです。

これでは無意識ながらも「導入すること」が目的になってしまうのです。事実、多数の施設では導入予定の機種の機能にあわせて課題をあぶり出すような書類作りが、業者の支援で行われました。

また、補助金対象となる機種を限定した事業においては、自治体に出向いてロビー活動を行った企業が有利でした。自治体担当者のもとを訪問し、働きかけた方が自社の製品をその自治体の補助事業の対象機種に入れてもらいやすいからです。

これについては、補助の対象外となった機種を扱う企業にとって、大きな参入障壁が目の前に現れたような感じでしょう。なぜなら、どこの施設も、補助金制度が目の前に示されたら、特別な理由でもない限り補助対象となる機種の中から購入するロボットを選ぼうとするからです。残念ながら、補助の対象外の機種は蚊帳の外に置かれてしまうのです。

だから全国各地の自治体に対してロビー活動を行う余裕がない小さい事業者には何かと不利だなと考えていました。

ただし、今後、新型コロナの影響で非対面の営業が一般化し、自治体でもWEB会議を行うことが当たり前になれば、例えば埼玉県の零細ロボットメーカーが北海道や福岡県の担当者にアプローチできるようになります。状況が変わっていくでしょう。

「モノ」に対する補助金だと、行政の方も無意識ながらも(予算消化・事業執行のために)「導入させること」が目的になりがちです。先に書いたモデル事業などは単年度単位で一旦終わるので、(行政は)計画通りに導入してもらおうと施設に働きかけます。

本来なら、施設において導入を検討するための話し合いや調整にもっと時間が必要だったかもしれません。また、導入前に研修やスキルアップの期間が必要だったかもしれないのです。

もっと正確に申し上げると、施設にとっては、きちんと準備を整えた上で、適切なタイミングに導入することがベストなのです。適切なタイミングというのは施設によって異なるのです。

ところが、行政の方は企画した補助金事業を執行するために「導入させること」が目的になりがちです。なぜなら、計画通りに(施設に)導入させないとロボット活用見学会、導入事例発表会などと後に予定しているイベントを年度内に開催することができなくなってしまうからです。

繰り返しになりますが、きちんと申し上げると、「モノの購入に対する補助金」は素晴らしい制度ですが、(使い手の施設が)上手く活用できるよう(行政側が)工夫をしてあげない限り、介護施設側には「選択肢がなく」「導入ありき」になってしまうという点が問題だと考えているのです。

なにしろ「導入ありき」で「機種まで限定」、しかも「導入時期」まで決められていたら、誰もが「導入ありき」の発想になってしまいますから。

このことは10年くらい前に神奈川県事業で私がある施設長から1時間半以上も説教された時に気付かされました。一緒に仕事していた仲間が、私の知らないところで「税金を使って導入しているのに、なぜ使わないのか?」「使わないと税金が無駄になる!」などと施設の担当者を責めていたのですが、それに対する抗議だったのです。

仲間は一生懸命に業務を遂行したのでしょうが、結局のところ施設に使うことを強要していたのです。それで、後に私が呼びつけられる羽目になったのです。

 

とにかく、「他にやるべきことがある」と頭ではわかっても、目先の補助金獲得のために「導入すること」が目的になってしまうのです。「なぜ、急いで今すぐに導入しなければならないのか?」と疑問に感じながらも、事業を遂行するために「導入すること」が優先されてしまうのです。

だから補助金政策については、漠然と同じことを繰り返すのではなく、PDCAを回すごとく、時間の経過と共に工夫を加える必要があると考えています。

これまで説明した介護ロボットの購入に関する補助金政策は、経済産業省の運営費交付金で賄われている『IT導入補助金』に似ています。これは中小企業・小規模事業者等が自社の課題やニーズに合ったITツールを導入する経費の一部を補助してくれる制度なのですが「ITツール導入ありき」なのです。

しかも好き勝手に機種を選ぶことができません。事務局(委託事業者)が決めた業者(IT導入支援事業者)の中から決められた機種を選ぶことになります。

また、これとは別に中小企業庁の『小規模事業者持続化補助金』という補助金があります。こちらは、事業者が自ら経営計画書を書き上げ、それを実現するために必要な広報費、委託費、外注費などを補助するという制度になります。金額に上限があり、一定の条件こそありますが、その範囲内であれば自由に(さまざまな用途に)資金を使うことができるのです。

なお、この補助金は大手広告代理店の中抜き問題でメディアに騒がれた「持続化給付金」とは異なります。

 

とにかく、介護施設に対しては、「導入ありき」で「いきなり導入」させるIT導入補助金のような補助金を交付するよりも、むしろ「持続化補助金」のように、施設が自らの頭で考えた計画の具現化を支援するために必要な経費に補助金を交付した方が賢明だと考えています。

例えば、介護施設に経営計画書のような「業務(オペレーション)改善計画書」を自ら作成してもらうのです。そして、それを具現化・実行するために必要な出費を(ルールを決めた上で)補助の対象にすることができるはずです。

本来なら、ロボットの導入に際し「検討」というプロセスが必ずあります。そこには「研修を行う」「専門家を招いて勉強会を開催する」「展示会に参加して勉強する」といった活動も含まれます。

補助の対象を「ロボットの購入費」だけではなく、このような活動に費やした経費にも広げたらいかがでしょうか? 

「モノだけ」に交付する補助金ではなく、自ら考えた業務改善計画の内容を実施するために必要な活動経費を補助してあげる政策に変えていけば、施設側の発想も「導入ありき」から「業務改善計画を実現するために、我々は何を行うべきだろうか?」「◯◯も必要ではないか?」などと、受身から自発的な態度に変わっていくはずです。

 

繰り返しになりますが、自治体から与えられた「補助対象の機種一覧表」の中からよくわからないまま無理に機種を選び出すような受身で「導入ありき」の状態から抜け出してもらうためにも、自ら考えて「何をすべきか?」「何が必要なのか?」と考えてもらうように仕掛けることです。

なお、蛇足ですが、使い手である介護施設が、ロボット活用に関する要件定義をきちんと行っていれば「モノだけ」に交付する補助金でも十分なのです。だから「ウチは●●のために追加で◯◯の購入が必要だ」と要件定義されている会社にとっては、IT導入補助金は非常に使い勝手が良いものとなります。

しかし、多くの施設はまだその段階に達していない(要件定義されていない)のです。補助金獲得のために用意した付け焼き刃な計画しかなかったりするのです。だからIT導入補助金と同じやり方では上手くいかないケースが多くなるのです。

ちゃんとした計画があることが前提となりますが、正しいプロセスを踏んで、正しい機器を選び、それを正しいタイミングに導入すべきなのです。そのタイミングと補助金の公募時期を合致させることが施設にとっては理想なやり方なのです。

 

とにかく、ロボットを上手に活用できるようになるために必要なことは、モノ(ロボット)だけではないはずです。その前にやるべきことがあるのです。だから、いきなり購入の決断を迫るような補助金政策ではなく、過去の反省を踏まえた上で工夫を加える必要があると考えています。

そもそも「ロボットの活用」は、本来の目的ではなく、目標達成のための手段にすぎないのですから。業務を改善するためのツールなのです。

行政側が、過去の施策を省みることなく、単に補助率や補助の上限額を変更しながら同じことを繰り返す、あるいは、ヨソの自治体や前任者の業務をそっくりそのままマネするだけでは前進がありません。

そうではなく、補助金政策のあり方を見直すようになれば、これまでに見られた「いきなりロボット」「補助金が出るから導入する」といった問題が改善されていくと考えています。

補助金政策をIT導入補助金型から持続化補助金型へと変更することで全てが上手くいくわけではありませんが、普及に向けて大きく前進すると考えています。

上手くいかない施策を毎年のように繰り返すのではなく、行政の政策にも改善が求められているのではないでしょうか?

前のコラム|一覧へ|次のコラム

介護市場に販売事業者として新規参入したい

【No.43】コロナ禍で介護ロボットの普及は阻まれるのか?
【No.42】分厚いレポートと保険給付外の市場の可能性
【No.41】販売事業者は、どのようにセミナーを開催するべきか?
【No.40】製造業のサービス化が進んでいく中、介護ロボットは?
【No.39】縦割りの弊害とカニバリゼーション
【No.38】介護ロボットのセミナーやアンケートの活かし方
【No.37】介護ロボットの普及は「見える化」が解決してくれる
【No.36】介護ロボットの普及・市場開拓のブレイクスルー
【No.35】介護ロボットの買い手の効用を妨げているものは?
【No.34】平成31年度の補助金は早期争奪戦か?
【No.33】介護ロボットはキャズムを越えられるか?
【No.32】産業用と異なるからこそ必要なこと
【No.31】介護ロボット販売で先にやるべきこと
【No.30】成功への第一歩はメニューに載ること?
【No.29】 過去のターニングポイントと面白い取り組み
【No.28】 平成30年度の介護ロボット予算で気付いたことは…
【No.27】ロボット活用に向けた施策で最も重要なことは…
【No.26】市場開拓にレバレッジが効く「1対N」のアプローチ
【No.25】介護ロボット市場の開拓にも必要なユーザー教育
【No,24】誰が介護ロボット市場を制するか?
【No.23】介護ロボット代理店の苦労
【No.22】ロボットビジネスのセグメント化
【No.21】「ニーズの違い(バラツキ)」とイベント企画
【No.20】施設が補助金に飛びつく前にやるべきこと
【No.19】施設にとってロボットの導入で最も重要なことは?
【No.18】ロボットをロボットとして見ているだけでは?
【No.17】ロボット市場への参入は凶と出るか吉と出るか?
【No.16】ロボットセミナーの開催で判明した顧客のニーズ
【No.15】潜在顧客から見た見守りロボット
【No.14】介護ロボットは6年前より増えたが、その一方【No.13】見守りロボットは是か非か?
【No.12】介護ロボットを活用する直接的なメリット
【No.11】ロボットに頼らない活用方法は?
【No.10】施設の介護ロボット選定の実態は?
【No.9】介護ロボット市場の開拓には?
【No.8】補助金政策による光と影
【No.7】補助金のメリットとデメリットは?
【No.6】自治体支援策の特徴は?
【No.5】ハードだけではなく、ソフト面も必要では?
【No.4】介護現場にロボットを導入するための要件は?
【No.3】なぜ、「普及はまだまだ!」なの
【No.2】介護ロボットの認知度は飛躍的に高まったが
【No.1】介護ロボットの普及を電子カルテと比べると