『ホワイトカラー消滅: 私たちは働き方をどう変えるべきか』という冨山和彦氏の本を読みました。冨山氏はビジネス界では著名な方です。テレビ番組や講演でも活躍されているため、ご存じの方も多いかもしれません。
この本に書かれている内容は、タイトルの通り、今後ホワイトカラーが消滅していくというものです。今まさに、昭和式の(正社員の)終身雇用と年功制を前提とした経営・社会モデルが崩壊していくということ。そして、社会全体として、経営の仕事のような「ボス仕事」を担うアッパーホワイトカラーだけが生き残り、「部下仕事」を担っていたロウワーホワイトカラーは消滅、あるいはAIの圧力で賃金水準が低下していく運命にあると冨山氏は指摘しています。
都市部のオフィスでパソコンを前に働くビジネスパーソンと呼ばれる人々の多くは必要なくなるということですが、行き場を失ったホワイトカラーは、いったいどこへ向かうべきなのでしょうか。もちろん、「ボス仕事」に就く道もあります。後継者不在の事業承継問題に直面している高齢の経営者が多いので、そのような企業で経営者になる選択肢も考えられます。しかし、それは一部の人に限られる道となり、残りの多くの人にとっての道はどこにあるのでしょうか。
冨山氏は次に起こるシフトとして、「グローバル産業のホワイトカラーから、AI代替が起きにくいローカル産業のエッセンシャルワーカーへのシフト」を提案しています。このシフトは、日本社会全体の未来を形作る重要な変化と位置付けられると思います。
エッセンシャルワーカーとは、私たちが最低限の生活、または快適な生活を維持するために欠かせない職業を指します。コロナ禍を通じてメディアで頻繁に取り上げられたこともあり、耳にした方も多いのではないでしょうか。具体的には、介護、医療、物流、交通、インフラ、小売り、農水産といった分野の従事者がこれに該当します。中でも、介護人材はエッセンシャルワーカーの中核的存在であり、今後の社会において大きな可能性を秘めた重要な役割を担っているのではないでしょうか。
介護業界は、日本社会の高齢化に伴いますます需要が高まる分野です。一方で、労働環境の厳しさや「やりがい搾取」といった問題が根深くあり、それらが職員のモチベーションを下げる要因となっているのも事実です。そこで必要なのは、労働生産性を高め、現場の負担を軽減し、働きやすい環境を整えることです。
また、冨山氏が述べているように、エッセンシャルワーカーが「アドバンスト・エッセンシャルワーカー」として成長し、社会の中核を担う存在となることが期待されています。そのためにも、テクノロジーの活用とデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進、そして人材育成やリスキリングが重要な役割を果たします。また、同一労働同一賃金の原則や適正な賃金制度を導入することで、介護職における正規・非正規間の格差をなくし、待遇改善を図ることも必要ではないでしょうか。これらの取り組みが、エッセンシャルワーカーの社会的地位を高め、さらには日本社会全体の安定的な成長にもつながると冨山氏は考えているのです。
介護業界が未来の社会の基盤として機能するためには、いくつかの課題に正面から向き合い、解決していく必要があるのではないでしょうか。まず、DXを推進し、介護ロボットやICTを活用することで業務の効率化を図り、現場の負担を軽減することが求められます。この技術革新によって、介護業界は持続可能なサービス提供体制を構築することができます。
また、介護人材が高付加価値スキルを身につけ、冨山氏が言う「アドバンスト・エッセンシャルワーカー」へと成長するための教育体制を整えることが重要です。こうしたスキル向上により、業界全体の生産性が向上し、賃金も上がり続ける結果、介護人材が社会の中核を担う存在となることが期待されます。
だからこそ、エッセンシャルワーカーの待遇改善は急務です。同一労働同一賃金の原則や適正な賃金制度を導入し、介護職における正規・非正規間の格差をなくすことが求められています。このような環境整備によって、介護職は「社会を支える中核的な仕事」としての地位を確立していくでしょう。
野口氏が本の中で述べているように、「補助によって改革と創造の力が削がれ、甘えと依存の構造が広がる。それは、古い社会制度をますます強固なものにしてしまうだろう」というリスクがあります。
補助金は、日本の産業構造を固定化し、改革の意欲を削ぐ危険性を持っています。介護ロボットやICTの普及推進に関する国や自治体の政策についても、「補助金依存体質になった日本の製造業」と同じ轍を踏んでいるのではないかと思われます。
だからこそ、介護分野においては、補助金を与えるだけでなく、介護施設側が自主的な改革とイノベーションを推進するための仕組みが必要です。国や自治体は、補助金制度を作り、それを配ることが目的となってしまいがちですが、それではあまりにも不十分です。
もっと長期的な視点から、介護現場での効率性や介護の質を向上させるための取り組みが求められます。介護施設を監督する立場にある役所が、前例踏襲主義になりがちな仕事のやり方を大きく変え、自らデジタル化を積極的に推進する存在にならないと、なかなか話が進まないかもしれません。
冨山氏が指摘する通り、日本社会の未来はエッセンシャルワーカーを中心にした「新しい中間層」の形成にかかっています。多様性を承認し、いろいろな生き方が中間層として尊重される社会を目指すべきではないでしょうか。その中で、介護職は「新しい中間層」の中核を担う存在として、大きな期待が寄せられているのです。
「今まで高生産性、高賃金とされていたホワイトカラーからのジョブシフトをスムーズに進めるためにも、エッセンシャルワーカー、ローカル産業のノンデスクワーカーがアドバンストになり、生産性と賃金が高くなる必要がある。この変化を実現することが、これからの日本の労働市場における最大のテーマだ」と冨山氏は本の中で述べています。
介護業界に携わる人たちは、未来の社会を支える主役です。介護職は、命や生活を支える社会基盤の中心的役割を果たす重要な仕事なのです。冨山氏が指摘する「新しい中間層」の中心的存在として、エッセンシャルワーカーがますます注目されることが期待されます。
社会の中で担う役割の大きさを認識し、自分たちの仕事に自信と誇りを持ちましょう。今後、アドバンスト・エッセンシャルワーカーとして成長していく人が増えていくことで、介護業界はさらに大きな可能性を広げ、日本社会全体の幸福度向上に寄与する存在となるでしょう。
変化には10年、20年、あるいは30年もかかるかもしれませんが、それが確実に進むことは間違いありません。だからこそ、技術革新や制度改革によって、労働環境を改善しつつ、誇りを持てる仕事として介護業界を再構築することが必要です。
この大きな変化の中で、私たち一人ひとりが何を考え、どう行動するかが問われています。「介護人材としての自信と誇り」を持ち、未来を切り拓いていきましょう。それこそが、介護業界にとっても、日本社会にとっても、より明るい未来を築く第一歩となるはずです。
【No.53】介護分野への挑戦:中小企業が切り拓く新たな可能性
【No.52】ホワイトカラーの消滅と介護人材が社会の主役となる未来
【No.51】日本社会の課題と介護産業の改革
【No.50】公務員の常識を覆すDX戦略の現場から【No.49】地方創生マネーの実態と課題
【No.48】地方自治体のデジタル変革:市民サービスの改善への道
【No.47】介護分野の労働危機を社会の転換点へと変える解決策
【No.46】介護予防事業の問題点と克服への道筋
【No.45】補助金が、自主性や積極的な改革の意識をダメにする?
【No.44】介護ロボの普及:国や自治体の補助金政策は何が問題なのか?
【No.43】コロナ禍で介護ロボットの普及は阻まれるのか?
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【No.41】販売事業者は、どのようにセミナーを開催するべきか?
【No.40】製造業のサービス化が進んでいく中、介護ロボットは?
【No.39】縦割りの弊害とカニバリゼーション
【No.38】介護ロボットのセミナーやアンケートの活かし方
【No.37】介護ロボットの普及は「見える化」が解決してくれる
【No.36】介護ロボットの普及・市場開拓のブレイクスルー
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【No.34】平成31年度の補助金は早期争奪戦か?
【No.33】介護ロボットはキャズムを越えられるか?
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【No.28】 平成30年度の介護ロボット予算で気付いたことは…
【No.27】ロボット活用に向けた施策で最も重要なことは…
【No.26】市場開拓にレバレッジが効く「1対N」のアプローチ
【No.25】介護ロボット市場の開拓にも必要なユーザー教育
【No,24】誰が介護ロボット市場を制するか?
【No.23】介護ロボット代理店の苦労
【No.22】ロボットビジネスのセグメント化
【No.21】「ニーズの違い(バラツキ)」とイベント企画
【No.20】施設が補助金に飛びつく前にやるべきこと
【No.19】施設にとってロボットの導入で最も重要なことは?
【No.18】ロボットをロボットとして見ているだけでは?
【No.17】ロボット市場への参入は凶と出るか吉と出るか?
【No.16】ロボットセミナーの開催で判明した顧客のニーズ
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【No.14】介護ロボットは6年前より増えたが、その一方【No.13】見守りロボットは是か非か?
【No.12】介護ロボットを活用する直接的なメリット
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【No.10】施設の介護ロボット選定の実態は?
【No.9】介護ロボット市場の開拓には?
【No.8】補助金政策による光と影
【No.7】補助金のメリットとデメリットは?
【No.6】自治体支援策の特徴は?
【No.5】ハードだけではなく、ソフト面も必要では?
【No.4】介護現場にロボットを導入するための要件は?
【No.3】なぜ、「普及はまだまだ!」なの
【No.2】介護ロボットの認知度は飛躍的に高まったが
【No.1】介護ロボットの普及を電子カルテと比べると