介護ロボットの着眼点(No.52)

ホワイトカラーの消滅と介護人材が社会の主役となる未来

~AI時代における新しい中間層の形成と介護業界の可能性~

2024年 12月6日(金)

【キーワード】

  • ホワイトカラーの消滅
  • エッセンシャルワーカー
  • 介護人材
  • DX
  • 新しい中間層

『ホワイトカラー消滅: 私たちは働き方をどう変えるべきか』という冨山和彦氏の本を読みました。冨山氏はビジネス界では著名な方です。テレビ番組や講演でも活躍されているため、ご存じの方も多いかもしれません。

この本に書かれている内容は、タイトルの通り、今後ホワイトカラーが消滅していくというものです。今まさに、昭和式の(正社員の)終身雇用と年功制を前提とした経営・社会モデルが崩壊していくということ。

して、社会全体として、経営の仕事のような「ボス仕事」を担うアッパーホワイトカラーだけが生き残り、「部下仕事」を担っていたロウワーホワイトカラーは消滅、あるいはAIの圧力で賃金水準が低下していく運命にあると冨山氏は指摘しています。

都市部のオフィスでパソコンを前に働くビジネスパーソンと呼ばれる人々の多くは必要なくなるということですが、行き場を失ったホワイトカラーは、いったいどこへ向かうべきなのでしょうか。もちろん、「ボス仕事」に就く道もあります。

後継者不在の事業承継問題に直面している高齢の経営者が多いので、そのような企業で経営者になる選択肢も考えられます。しかし、それは一部の人に限られる道となり、残りの多くの人にとっての道はどこにあるのでしょうか。

冨山氏は次に起こるシフトとして、「グローバル産業のホワイトカラーから、AI代替が起きにくいローカル産業のエッセンシャルワーカーへのシフト」を提案しています。このシフトは、日本社会全体の未来を形作る重要な変化と位置付けられると思います。

エッセンシャルワーカーとは、私たちが最低限の生活、または快適な生活を維持するために欠かせない職業を指します。コロナ禍を通じてメディアで頻繁に取り上げられたこともあり、耳にした方も多いのではないでしょうか。

具体的には、介護、医療、物流、交通、インフラ、小売り、農水産といった分野の従事者がこれに該当します。中でも、介護人材はエッセンシャルワーカーの中核的存在であり、今後の社会において大きな可能性を秘めた重要な役割を担っているのではないでしょうか。

介護業界は、日本社会の高齢化に伴いますます需要が高まる分野です。一方で、労働環境の厳しさや「やりがい搾取」といった問題が根深くあり、それらが職員のモチベーションを下げる要因となっているのも事実です。そこで必要なのは、労働生産性を高め、現場の負担を軽減し、働きやすい環境を整えることです。

また、冨山氏が述べているように、エッセンシャルワーカーが「アドバンスト・エッセンシャルワーカー」として成長し、社会の中核を担う存在となることが期待されています。そのためにも、テクノロジーの活用とデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進、そして人材育成やリスキリングが重要な役割を果たします。

また、同一労働同一賃金の原則や適正な賃金制度を導入することで、介護職における正規・非正規間の格差をなくし、待遇改善を図ることも必要ではないでしょうか。これらの取り組みが、エッセンシャルワーカーの社会的地位を高め、さらには日本社会全体の安定的な成長にもつながると冨山氏は考えているのです。

介護業界が未来の社会の基盤として機能するためには、いくつかの課題に正面から向き合い、解決していく必要があるのではないでしょうか。まず、DXを推進し、介護ロボットやICTを活用することで業務の効率化を図り、現場の負担を軽減することが求められます。この技術革新によって、介護業界は持続可能なサービス提供体制を構築することができます。

また、介護人材が高付加価値スキルを身につけ、冨山氏が言う「アドバンスト・エッセンシャルワーカー」へと成長するための教育体制を整えることが重要です。こうしたスキル向上により、業界全体の生産性が向上し、賃金も上がり続ける結果、介護人材が社会の中核を担う存在となることが期待されます。

だからこそ、エッセンシャルワーカーの待遇改善は急務です。同一労働同一賃金の原則や適正な賃金制度を導入し、介護職における正規・非正規間の格差をなくすことが求められています。このような環境整備によって、介護職は「社会を支える中核的な仕事」としての地位を確立していくでしょう。

冨山氏が指摘する通り、日本社会の未来はエッセンシャルワーカーを中心にした「新しい中間層」の形成にかかっています。多様性を承認し、いろいろな生き方が中間層として尊重される社会を目指すべきではないでしょうか。その中で、介護職は「新しい中間層」の中核を担う存在として、大きな期待が寄せられているのです。

「今まで高生産性、高賃金とされていたホワイトカラーからのジョブシフトをスムーズに進めるためにも、エッセンシャルワーカー、ローカル産業のノンデスクワーカーがアドバンストになり、生産性と賃金が高くなる必要がある。この変化を実現することが、これからの日本の労働市場における最大のテーマだ」と冨山氏は本の中で述べています。

介護業界に携わる人たちは、未来の社会を支える主役です。介護職は、命や生活を支える社会基盤の中心的役割を果たす重要な仕事なのです。冨山氏が指摘する「新しい中間層」の中心的存在として、エッセンシャルワーカーがますます注目されることが期待されます。

社会の中で担う役割の大きさを認識し、自分たちの仕事に自信と誇りを持ちましょう。今後、アドバンスト・エッセンシャルワーカーとして成長していく人が増えていくことで、介護業界はさらに大きな可能性を広げ、日本社会全体の幸福度向上に寄与する存在となるでしょう。

変化には10年、20年、あるいは30年もかかるかもしれませんが、それが確実に進むことは間違いありません。だからこそ、技術革新や制度改革によって、労働環境を改善しつつ、誇りを持てる仕事として介護業界を再構築することが必要です。

この大きな変化の中で、私たち一人ひとりが何を考え、どう行動するかが問われています。「介護人材としての自信と誇り」を持ち、未来を切り拓いていきましょう。それこそが、介護業界にとっても、日本社会にとっても、より明るい未来を築く第一歩となるはずです。