2017年 10月 22日(日)
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「介護ロボットの認知度は飛躍的に高まったが…」と題したコラムにも書きましたが、2010年に私が神奈川県事業で介護ロボットに関わった当時は、「介護ロボット」という言葉が、世間どころか介護業界の人にさえあまり知られていませんでした。
そのため、介護施設の施設長さんなどにロボットに関するインタビューを実施した際は、「介護ロボットとは…」とまずは定義のすり合わせからスタートしなければなりませんでした。
それに当時運営していた委員会のディスカッションでは、「ぬくもりが感じられない」「ロボットは機械であり冷たいイメージを与える」などと複数の人から指摘され、「ロボット」という表現は止めた方が良いとの議論が行われていました。
でもあれから7年が経過しました。今ではすっかり「介護ロボット」という言葉が定着しました。しかし、「ロボット」という表現を使う弊害もあるのかな? とも感じています。
今、介護ロボットの販売業者を調べて見ると、専業でやっている企業はなく、母体となる事業についてはざっと次のように分類できるのではないでしょうか?
まずは「福祉用具販売業者」です。排泄支援機器や車椅子など福祉用具だが介護ロボット扱いされている製品があります。福祉用具のレンタル・販売事業者がそれらを販売しています。
また医療機器として申請できるような介護ロボットがありますが、「医療機器販売事業者」がそのような介護ロボットの販売を手がけています。
主に製造業に工業製品を販売している「工業製品販売事業者」は、ロボットを軸に事業を組み立てており、販売先(業界)が複数あることも。その1つとして介護業界を選択しているようです。
さらに見守り機器については、ロボットというよりもICTに分類される製品ですが、当然ながら「システム販売業者」が絡んでいるケースが多いです。
「その他」と書いたのは、他にも実にさまざま事業者(法人)や個人(個人事業主)が介護ロボットの販売に関わっているからです。
介護用品や介護保険の住宅改修などに関わる事業者をはじめ、何かしら介護と接点がある会社だけではなく、サラリーマンとして会社勤めしながら副業で代理店契約して介護ロボットを販売している人もいます。
では、それぞれの販売事業者が「介護ロボットの販売にどの程度コミットしているか?」という視点からチェックしてみましょう。
介護ロボットの販売を担当する専門の部署を立ち上げている企業がある一方で、あくまで本業に品目追加する、あるいは自社の既存の販売チャネルをそのまま使って片手間的に介護ロボットの代理店業をやっている企業があります。
品揃えに関しては、単品に特化している企業がある一方、初めからいきなり10機種以上もの介護ロボットを取り扱っているところもあります。
平成27年度の厚生労働省の補正予算では、上限こそありますがなんと10/10と購入費全額を補助してくれるという事業がありました。その時期には多数の事業者が介護ロボットの販売業に参入しました。複数の業界から多数が参入してきたのです。
補助金を目当てに(?)参入した企業も少なくなく、今では各社がそれぞれ既存の事業で培ったアプローチや、既存チャネルの延長上で販売しているというのが実態ではないしょうか?
つまり、まだ介護ロボットの販売チャネルは確立されていないのです。
販売の手法はバラバラということです。というよりも「補助金」が投入された際は、国に提出する申請書の体裁を整え、モノ(ロボット)を右(メーカー)から左(施設)に捌く取り次ぎ店の役割を果たせば良かったのです。
売る(市場開拓する)ためのノウハウなど不要だったはずです。
補助金という大変ありがたいパイを複数の事業者間で食い分けあうだけの構造だったので、(買う側からみれば)代理店業はどこの誰でも良かったのかもしれません。
ところで、このコラムの冒頭に「ロボット」という表現を使う弊害もあるのかな?と書きました。
それは「ロボット」という表現に惹かれてか、工業製品販売業者・医療機器販売者・システム販売業者が多く販売に関わるようになりましたが、どうも対応が市場と噛み合っているように思えないケースがあるということです。
ロボットという言葉が使われていることもあり、工場に機械(ロボット)を販売するような感覚で介護業界を開拓しようとしている企業も散見されます。これが「ロボット」という表現を使う弊害かな? と思うところです。
介護市場の特性を見る限り、開拓方法は機械(ロボット)を製造業に販売する方法や医療機関に医療機器を販売するアプローチとは明らかに異なるはず。これについては、こちらの教材に詳しく書いてあります。
個人的には介護市場に精通している福祉用具販売業が最も有利と思っています。ただし、彼らの商売は介護保険制度の枠組み(いわゆる保護市場)の中でやってきたので、常に競争を強いられている「システム販売業者」などと比べるとマーケティングのノウハウや競争力の面でどうかな? という心配があります。
現に50社以上もの福祉用具業の取り扱い業者をチェックした限り、介護ロボットを扱っている企業はまだ少ないのです。多くが「様子見」の状態です。彼ら自身が「福祉用具と同じようには売れないぞ!」ということをよく認識しているのかもしれません。
今後、介護ロボットという福祉用具や医療機器と異なり、福祉用具よりは高機能・高付加価値だが「価格が高い!」という製品を、介護事業所という技術者でもなく医師のような専門職ではない集団に、上手く共感してもらえるアプローチで販売方法を確立した会社が、頭1つ、2つと抜けだして市場を切り開いてくれるのではないかと期待しています。
また、今の段階では市場規模が小さいこともあり「介護ロボット」と全てが一緒くたに扱われていますが、将来、セグメント化が進めば、セグメント別に勝ちパターンが異なるようになるはずです。
さらに、新しいビジネスモデルで市場参入し、市場の覇権争いで優位に立つ企業が出てくるかもしれません。
まもなく公開予定です(近日公開)