少し前のコラムで、「日経ロンジェビティ・カンファレンス」に参加したことをお伝えしました。そこであらためて感じたのが、「ロンジェビティ」という言葉が持つ意味の広がりです。
ロンジェビリティという言葉が示すのは、単に「長生きする社会」ではありません。それは、長く生きることを前提に、どんな時間を過ごし、誰と関わり、社会とどうつながり続けるのかを問い直す概念です。
日本では高齢社会というと、どうしても「介護」「支援」「負担」といった言葉から語られがちです。もちろん、それらは現実的で重要なテーマです。しかし、それだけで未来を描こうとすると、高齢になること自体がちょっとネガティブな出来事のように映ってしまいます。
一方で、ロボットやAI、デジタル技術の進化によって、高齢社会の見え方は少しずつ変わり始めています。テクノロジーは今、単なる効率化を目的とした道具ではなく、人と人、人と社会をつなぎ直す存在へと役割を広げつつあります。
これからの10年、2035年に向けて、高齢社会はどのように姿を変えていくのでしょうか。本コラムでは、人口構造や社会的な前提としての「高齢社会」を踏まえつつ、その先にある目指す姿を「幸齢社会」と呼んでいます。
そこで今回は、「高齢社会」という現実を踏まえつつ、その先にある「幸齢社会」という視点から、テクノロジーと共に生きる時代に、どんな暮らしや関係が広がっていくのかを考えてみたいと思います。
これまで高齢者向けのテクノロジーは、主に人手不足を補い、負担を軽減するためのものとして導入されてきました。介護ロボット、見守りシステム、業務効率化ツール。私は2010年から介護ロボット・ICTの普及に関わってきましたが、その多くは「人の代わりになる」「人の作業を減らす」ことを目的としてきたと言えます。
しかし最近は、技術の役割が少しずつ変わり始めています。ロボットがそばにいることで会話が生まれたり、デジタルツールを通じて社会との接点が保たれたりと、効率では測れない価値が見え始めているのです。
テクノロジーそのものが主役なのではなく、それを介して生まれる時間や関係性にこそ意味がある。そんな発想への転換が、今まさに起きているのです。
高齢になると、どうしても「できなくなったこと」に注目が集まります。体力の低下、移動の制約、役割の縮小。社会の側も、本人自身も、無意識のうちに選択肢を狭めてしまいがちです。
しかし、テクノロジーを前提に考えてみると、高齢になることで生じる変化は、「仕方がないこと」として受け止めるしかないものではなくなります。
これまでと同じことを、同じやり方で続けられるかどうかにこだわる必要はありません。むしろ、年齢や体の変化に合わせて、人や社会との関わり方を少しずつ組み替えていくという考え方が大切になってくるのではないでしょうか。
「以前と同じようにできるか」ではなく、「今の自分に合った形で、どんなつながりを持ち続けられるか」。そう考えていくと、幸齢社会とは、できなくなったことを嘆く社会ではなく、形を変えながらも、人との関係や社会とのつながりを大切にし続けられる社会なのだと思います。
幸齢社会という言葉から、快適で便利な暮らしをイメージする方も多いかもしれません。しかし、私が考える幸齢社会の本質は、利便性そのものではありません。
誰かとつながり続けられること。
小さくても役割を持ち続けられること。
社会から完全に切り離されないこと。
こうした「関係の持続」こそが、年齢を重ねた先の暮らしの質を大きく左右します。
テクノロジーは、その関係を支えるための黒子であり、決して主役ではありません。
これは事業の現場でも同じです。例えば「YouTubeで動画を配信する」といった場合でも、テクノロジーが先に来るのではなく、「どうありたいのか」を明確にすることが重要です。
超高齢社会においても、どんな技術を使うかより先に、どんな関係を続けていたいのかを考えてみる。そんな視点が、これからの高齢社会を前向きにしていく鍵になるのではないでしょうか。
今後10年で、ロボットやAIはさらに進化していくでしょう。しかし本当に重要なのは、「どんな技術があるか」ではないはずです。
問われるのは、どんな社会をつくりたいのか、どんな時間を大切にしたいのか、そしてそのためにテクノロジーをどう位置づけ、活用していくのかという点です。
この問いがないまま導入された技術は、やがて使われなくなるでしょう。
逆に、目指す姿が明確であれば、技術は自然と意味を持ち始めます。
ロンジェビリティ、ロボット、AI。
これらは遠い未来の話ではなく、すでに私たちの暮らしの延長線上にあります。
だからこそ、「何を導入するか」を考える前に、どんな幸齢社会を目指すのかを一人ひとりが描き言葉にすることが、今まさに求められているのではないでしょうか。
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