施設の中で介護ロボットの導入・活用を成功させるためのポイントは、現場を巻き込みながら、組織として「体制づくり」や「仕組みづくり」に取り組むこと。

組織の中で「人に動いてもらう」「人を巻き込む」ことが重要なポイントの1つとなります。こちらのページで紹介する事例では、いずれも人(職員)を上手に巻き込んでいることがわかるはずです。

事例1:現場は導入に大反対、しかし経営視点から見事に導入

これはトップダウンの成功例の1つとして紹介します。成功例の1つというよりも、ロボットを経営視点から戦略的に導入した素晴らしい事例です。

A施設長には、ある想いがあり、介護ロボットが現場に役立つのではないかと考えたのです。しかし、当時の現場は「ロボットの導入=余計な仕事が増えるだけ!」と考えるだけであり、ロボット導入にはまるで興味がありませんでした。現場のB課長もロボット導入には反対でした。

そこで、A施設長は、現場のB課長に介護ロボットの見学・視察に行かせました。何度か調査させてレポートまで書かせたのです。そして、A施設長がB課長のレポートにフィードバックをすることで、B課長はさらに調査を続けざるを得なくなり、徐々にロボットについて詳しくなりました。

しかも、B課長はレポートを書く過程で現場への導入可能性を探ることになりました。結局、ある機種であれば「ウチでも使えるのでは?」と判断したのです。

 

その後、経営会議の場で理事長にプレゼンする運びとなりました。その際は、プレゼンをうまく仕掛けました。なんと導入提案をしたコミュニケーションロボットを使って理事長さんの前で丁寧に挨拶させるシーンを敢えて演出したのです。

「○○理事長、本日はありがとうございます!」などとロボットに喋らせたのでした。もちろん、理事長さんは上機嫌。プレゼンは成功して導入に至ったのでした。

 

この事例では注目すべき点がいくつもあります。

1つ目は、B課長を含めて介護ロボットの導入に反対だった現場に対して、上手に課題を与えて自主性を重んじながらロボット導入の提案をさせた点です。「失敗事例」として紹介した、よくありがちな上層部からの「やれ!」という指示で現場を動かそうとしたのではないのです。

2つ目は、介護ロボットの導入に大反対だった現場を動かし巻き込んだだけではなく、最高責任者である理事長を上手にヒーローにした点です。しかも、あらゆる方面(上の人、下の人、施設、地域など)へのプラス効果を予め検討していた点が素晴らしかったのです。

3つ目は、2つ目に関連しますが、(導入した)介護ロボットを、単なる現場で使うツールとして扱ったのではなく、経営的な視点から戦略的に導入した点です。導入に際し、敢えてメーカーと施設の双方がwin-winになることを検討していたのです。

その1つが、巧みに広報・宣伝に活用したことです。施設長は導入すればメディアが取材に来ることを予知していたのです。TVなどで紹介されれば、施設はもちろんですが、施設がある小さな街の名称まで全国に知れ渡ることになります。そしてメディアの取材を理事長に対応してもらったのです。

そうすれば理事長の名前がメディアを通じて知れ渡ることになります。また、施設がロボットを使っている様子がメディアに露出すれば、ロボットメーカーにとっても非常に大きな宣伝効果になります。こういうことをあらかじめ想定して導入を決意した点が素晴らしかったのです。

事例2:委員会運営で自主的に課題を解決させる

これはトップダウンではなくボトムアップで意思決定した成功例の1つとして紹介します。

A施設では、施設内で課題として扱うべきテーマ(例えば、「紙おむつのムダを無くす!」)が決まると、ヒラの職員達から構成される「委員会」を設置・開催していました。委員会で議論して決まった内容をトップに提案して採択してもらうという意思決定プロセスを採っていました。

委員会の運営に関しては、「ビフォー(導入前)vs.アフター(導入後)」の費用の比較方法など、管理職が少しアドバイスすることはあっても、基本的にすべてヒラの職員達だけで行われていたのです。

ヒラの職員だけで運営される委員会が課題の解決策として提案し導入した介護ロボットであれば、現場の職員達は一生懸命に使いこなそうとします。なぜなら自分達の提案だからです。

 

この方法の優れた点は3つあります。

1つ目は「自主性の尊重」です。現場職員の自主性に任せた問題解決の提案結果としての導入・活用だったことです。上からの指示で受身になって仕方なく業務をやるのではなく、自らが提案した解決方法でした。だから現場職員達のやる気がはじめから違います。

2つ目は「モチベーションアップ」です。上からの指示で嫌々やるのではなく、自分達が提案した内容が具現化すれば、業務に対してやる気が出てきます。繰り返しますが、モチベーションがアップします。

3つ目は「人材育成」という点です。委員会にて決めた内容については報告やプレゼンする機会があります。また調査が必要になることもあります。

こういう業務を自ら率先して考えて行動に移していくことや資料作成やプレゼンを行なうことはスキルアップの機会となります。立派なOJT(On the Job Training)となり人材育成の機会になるのです。

事例3:ロボットなのに、チームや家族の一員扱い

  • 名前を付けてあげる
  • 名前の候補を広く、利用者さんの家族からも受け付ける
  • 家(ハウス)を用意してあげる
  • 「パロ君 富山県出身」
  • 介護スタッフの一員のように扱う

癒しを与えてくれるアザラシ型のパロ

これらは、どれもアザラシ型のロボット・パロを上手に導入した施設の例です。パロの姿はアザラシの赤ちゃんです。センサーや人工知能の働きによって人間の呼びかけに反応し、抱きかかえると喜んだりします。人間の五感を刺激してくれるロボットです。

パロに限らず、上手く介護ロボットを導入・活用するポイントの1つは「皆を巻き込む」ことです。法人や施設内の1人、2人の担当者だけがロボットを活用するのではなく、チームで介護ロボットの導入・活用をした方が遥かに上手くいくのです。

上に書いたパロの導入・活用例では、押し付けがましさがなく、さりげなく他人を巻き込んでいる点が素晴らしいのです。詳しく説明しましょう。

 

例えば、新しく導入するパロのことを知ってもらう手段の1つとして、「名前を広く公募する」という方法があります。それも公募の対象を施設内の職員に限定するのではなく、利用者さんや利用者さんの家族にまで広げるのです。

そして、公募で決まった名前を大々的に発表するのです。施設内の掲示板だけではなく、ニュースレターの中にも「新しい仲間(パロ)の名前が決まりました!」と記載し、発表するのです。そうすれば、「新しくパロというロボットがやってくること」を皆に周知させることができます。

しかも、「ロボットを導入するので使いなさい!」と上から目線ではなく、可愛いパロに新たな名前を付けてあげるという「遊び心」があり、周囲の協力が得られやすくなります。

「矢島さくら」と名付けられたパロちゃん
(神奈川県横浜市都筑区の施設にて)

名前を公募する以外にも「家を用意してあげる」という方法があります。「パロハウス」を作ってあげるのです。

そしてパロハウスを施設の玄関口に設置しておけば、人が出入りする度にパロの存在が目に付きます。いつもなら、「こんにちは!」や「失礼しました!」などと必要最低限の言葉しか交わさない人までが、「あら、この子、可愛いわね~」「さくらちゃんなの?」などと口にすることになります。パロの存在が人と人とのコミュニケーションを円滑にするキッカケを作ってくれるわけです。

また、ある施設では、氏名と出身地が記載された介護職員1人1人の顔写真が掲示板に貼り出されていました。そこで私は見付けたのです。「パロ君 富山県出身」と記載された写真を。パロがロボットではなく、立派な職員として扱われていたのです。

このように「遊び心」を持って、ロボット(パロ)をあたかもチームや家族の一員のように扱うことより、施設内の職員はもちろんのこと、利用者さんやその家族にまで一体感が生まれるのです。

 

以上、パロの事例を紹介しましたが、同じようなアプローチは他の機種(ロボット)でも使うことができます。機械・ロボット・ITツール・各種システムなどの活用については、少し遊び心を持って知恵を絞ればさまざまなアイデアが出てくるはずです。モノに「○○君」などと名付けて擬人化させても良いのです。そうすればモノに対して愛着が沸いてきますから。全ては工夫次第なのです。