介護ロボットの着眼点(No.32)

産業用と異なるからこそ必要なこと

2018年 8月 31日(金)

【キーワード】

  • 教育・組織強化
  • RPA
  • ロボティクス スタジオ

今月、東京・新宿高島屋の9Fにあるロボティクス スタジオに行く機会がありました。昨年10月にオープンしたロボットの常設売り場です。このような売り場は百貨店では初の試みだそうです。

そこには「コミュニケーション型」「ライフスタイル型」「プログラミング型」「エンターテイメント型」と、4つに分類されたロボットが展示されていました。

私は、ロボットを手にとった人がどのような反応を示すのか少し観察してみました。百貨店にある他の店舗と比べると手狭なスペースでしたが、人の反応を見た限り、「どれも子供のおもちゃ扱いだな!」と感じました。

私が深く関わったパロも展示されていました。そこには、「かわいい!」と言いながら頭を撫でる小学生、赤ちゃんに触らせている若いお母さんなどがいました。

展示されているパロを観察して感じことは「どの人も、手足を動かし、鳴き声を出すぬいぐるみとして見ているだけでは?」ということです。

同時に、「展示するだけでは販売が難しいな!」「パロの魅力を理解してもらう前に価格を見てビックリしてしまうのでは?」とも思いました。

さて、話は変わり、何年か前からロボットブームが続き、今でもAIやIoTほどではないかと思いますが、ロボットという表現をニュースや新聞などでよく目にします。

数年前からはRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)という言葉もよく耳にするようになりました。

RPAをはじめ多くの製品は、開発者や製造者の視点だと「ロボット」なのかもしれません。しかし、ユーザーから見ると「これはロボットだ!」と認識されない製品が意外にも多いのではないでしょうか?

新宿高島屋のロボティクス スタジオに展示されている製品はロボットですが、多くのユーザーの目には「おもちゃ」と映ったことでしょう。「プログラミング型」のロボットについては、「ゲーム」と思った人もいるでしょう。

またRPAについてもロボットというよりも、事務処理の自動化ソフトと表現した方が一般の人にとってはわかりやすいはずです。先日、友人と会った際にRPAについて少し説明しましたが、彼の反応は「えっ、そんなモノがロボティックなの?」でした。

ところで、前々から感じていたことがあります。それは「ロボットビジネス」という表現についてです。この表現は、開発や製造事業者を対象にしているのであればOKでしょう。

ところが販売や普及・促進の取り組みにおいては、市場単位での取り組みが不可欠であると考えています。仮に「同じロボット」を提供したとしても、市場毎に対応が大きく異なるからです。

言い方を変えて同じことを繰り返しますが、ロボットビジネスなどと「ロボットというモノで括る視点」は開発や製造分野では良いかと思います。ロボット技術が使われている限り、ロボットという見方で良いのです。

しかし、先に書いた新宿高島屋の例のように、多くのユーザーはロボットをロボットと認識していないことがあります。

だからロボットビジネスなどというモノで括る視点によるアプローチでは市場の実態に合致した対応が難しいのではないかと思っています。片や「ロボット」というモノで括る視点でビジネス展開しようとする一方、片や「ロボット」という見方をしていないからです。

 

余談ですが、私が委員として少し手伝っている東京都では介護ロボットではなく「次世代介護機器」という表現を使っています。

ロボットの定義をいくら示したところ、どこまでがロボットなのかハッキリしません。それにロボットを特別視するよりも、従来型の機器の進化版ということで「次世代介護機器」という表現を使い始めたのではないかと思いますが、その言い方はなかなか良いと思っています。

とにかく「ロボットというモノで括る視点」で市場を捉えるのはなく、理想はユーザー毎ですが、市場毎の対応が不可欠ではないかと思います。

製造業と非製造業では市場が大きく異なります。ロボットの使われ方も大きく異なります。産業用の場合は、電源をONにすればロボットが人に代わって業務の一部を担ってくれます。

何年か前から安全柵なしで人と協働する協働ロボットの小型化・軽量化が進み、中小の製造現場でも導入され始めています。人とロボットが同じスペースで箱詰めや梱包作業などを行っている現場を目にすることが珍しくなりつつあるのです。

ところが、産業用と異なり、介護のような現場では電源をONにすればロボットが人に代わって業務の一部を担ってくれるわけではありません。ITツールのような介護ロボットは別ですが、多くは人の介在が不可欠です。

つまり、電源をONにすれば済むわけではなく、人に動いてもらわなければなりません。それに、使用毎の設置や片付けに手間が掛かるだけではなく、使用に際してはあらゆる局面で人の判断が求められます。

だから協働ロボットのように小型化・軽量化・低価格化が進めば、現場で普及するという感じではないはずです。中小の製造現場と異なり、人の介在が大きいからです。介護現場へのロボット導入は、中小の製造現場以上に時間を要すると以前から考えていました。

 

やはり、ロボットというモノの小型化・軽量化・低価格化だけではなく、モノを活用する人の教育や組織の強化が不可欠でしょう。

介護現場にロボットが広く普及するということは、パラダイムシフトとかトランスフォーメーションと言うほどの大げさなことではありませんが、現場にかなり大きな変化をもたらすことになるからです。

単にモノ(ロボット)を与えて操作方法を習得してもらえば済むことではなく、次のステージに上がってもらえるよう人や組織のスキルアップ/ステップアップが必要ではないでしょうか? 

そういうことを行わない限り、一部のITツールのようなロボットを除くと、まだ広く普及するにはかなりの時間が掛かるのではないかと思っています。