【コラム】介護ロボットの着眼点

介護ロボット

高齢化の進展に伴う社会課題の解決、それに新産業の育成という面でも注目される介護ロボット。

このコラムでは「介護ロボットの着眼点」と称し、私、関口が2010年にスタートさせ、現在も取り組んでいる介護ロボットの普及推進にまつわる話をお伝えします。

過去の取り組みをはじめ、現在、未来と時間軸をずらし、あるいは、メーカー、介護施設などと立場を変えながらお伝えする介護ロボット普及推進のコラムです

 

2018年 9月 26日(水)

介護ロボットコラム033:介護ロボットはキャズムを越えられるか?

いきなり難しい話からのスタートとなりますが、「キャズム理論」というのを聞いたことがあるでしょうか?

今回は、介護ロボット市場の形成、特に「キャズムを越えられるか?」という視点で話を進めていきます。

キャズム(chasm)とは、「深い裂け目」「岩盤や氷山にできた巨大な亀裂」のことです。少数の進歩派によって構成される初期市場と、一般的な利用者からなる主流市場との間には、大きな裂け目があると言われますが、それがキャズムです。アメリカのムーア氏によって提唱されました。

ところで、キャズムを説明するに際し、「イノベーター理論」というアメリカ・スタンフォード大学のエベレット・ロジャース教授が提唱したイノベーション普及に関する理論を知っておくと良いので少し説明します。

これは商品購入に対する態度を購入の早い順に5つに分類したものです。その5つは、Innovators(革新者)、Early Adopters(初期採用者)、Early Majority(前期多数採用者)、Late Majority(後期多数採用者)、Laggards(採用遅滞者)に分類されます。つまり、このように順を追ってモノが普及していくということです。

最初に購入するInnovators(革新者)は冒険好きな人たちです。彼らは、新しい知識を手に入れたがります。新しいモノが市場に出ると飛びついて購入する人たちです。介護ロボットについても、他のモノが市場で普及する時と同じように、そのようなInnovators(革新者)と呼ばれる人たちが最初に購入しました。

そして、Innovators(革新者)の次にEarly Adopters(初期採用者)と呼ばれる人たちが購入することになります。そして…と続けたいのですが、ここまでは順調だったにも関わらず、次のEarly Majority(前期多数採用者)と呼ばれる人たちに採用されることなく(市場に普及せずに)、残念ながら市場撤退ということがよく起こります。それがキャズムの典型パターンです。

私は3-4年前から「介護ロボットは、キャズムを越えられるか?」ということがかなり気になっていました。

これまでの市場形成を見る限り、「売り手」も「買い手」も公金に頼った格好でした。そんな中、果たしてキャズムを超えられる製品はどれだけあるでしょうか?

今の公金に頼った市場開拓では越えられない製品が少なくないと思っています。代理店は、上手くいかないからと、2つ目、3つ目、…と取扱い製品を増やしてチャンスを追い求めるものの、勝ちパターンを見い出すことができないまま時間が過ぎていき…。

幸いなことに「モノづくり」に公金が投入され続けるので、新製品が今後も次から次と開発され、それが後に市販化されるはずです。そして公金の力に頼りある程度の販売量は確保できるものの、それ以降はあらかじめ周到に準備しない限りかなり苦労することになるはずです。成り行きのシナリオだとキャズムを越えることができないということです。

そこでキャズムについて書かれた本を読んでみましたが、そこには面白いことが書かれていました。Innovators(革新者)やEarly Adopters(初期採用者)の人たちは、イノベーションの可能性を追求するので、少々使い勝手が悪くても、不便な点は創意工夫して利用するとのこと。

一方、Early Majority(前期多数採用者)の人たちは、イノベーションを変革のための手段とは考えることはなく、生産性の向上やコスト削減など実利的な結果を重視するとのこと。

要するに顧客の購買心理が異なるということです。市場の特性が異なるのです。

そこで私が読んだ本の解説によると、キャズムを越えてEarly Majority(前期多数採用者)の人たちに受け入れてもらうためには命題が3つあるとのこと。それらは次の通りです。

  1. 具体的かつ実利的な目に見える成果
  2. 工夫なしに簡単に使えるユーザー・インターフェイス
  3. 過去の実績

介護ロボット向けに言い換えると、導入初期の苦労など無く簡単に使えて、職員の負担軽減などの成果が明らかに実感できる製品となります。

また、上記3つの命題を満足させる方策については、次の4つが読んだ本の中に示されていました。

  1. ニッチ市場の選定
  2. ホールプロダクトの構築
  3. ポジショニングの設定
  4. 流通チャネルと価格の設定

1つ目は「ニッチ市場の選定」ということですが、介護ロボットの「見守り」「移乗介助」などの分野はすでにニッチ市場です。そこで介護ロボットの場合は「ニッチ市場」というよりも、特定のユーザーと言い換えた方が良いと考えています。それは自社製品の魅力を最大限に引き出して活用してくれるユーザー(施設)です。

そういうユーザー(施設)に受け入れられることが、後の波及効果につながります。これがキャズムを超える第一歩です。これについては、私が前々から「協力施設の育成」と主張していたことと同じです。

つ目に出てきた「ホールプロダクトの構築」とは、完全パッケージの製品やサービスのことです。ホールプロダクトで重要なのは、解決策をトータルに提供するということ。これは私が前々から主張していた「導入・活用の支援」が該当するのではと考えています。

ユーザーである施設にモノを提供するだけでは不十分であり、完全パッケージにはならないのです。詳しくは、こちらのページで解説しています。

3つ目の「ポジショニングの設定」に移りますが、特に製品数が多い「見守り」にはそれが重要だと常々感じていました。これは、自社製品が競合と比較して、相対的にどのような位置にあるのかを示してあげることです。

見守り機器のように似たような製品が多数ある場合、ユーザー(介護職員)から見ると何が何だか違いがよくわからないはずです。私にもよくわかりません。だから細かな機能面について「ああだ!こうだ!」と説明する前に、自社製品が見守り機器の中で相対的にどのような位置にあるのをユーザー(介護職員)に示した上で理解してもらう必要があると考えていました。

4つ目の「流通チャネルと価格の設定」に関しては、読んだ本によると注目すべき販売チャネルは直販とのこと。この方式は、顧客と直に商談し、顧客の問題点を浮かび上がらせ、その解決方法を提案できるから優れているとのこと。ハイテク製品など、機能が複雑なものは、需要を作り出す上で最適の販売チャネルとのことです。当たり前の内容ですね。

 

最後になりますが、ムーア氏は上記の方策を推進しながら、ニッチ市場でリーダーシップを獲得するとともに、口コミ効果を活用しつつ、周辺ニッチ市場を攻略する! そのようなシナリオを描くことを提唱しています。それはまさに戦略の公式です。

介護ロボット市場開拓のマーケテイング

【No.33】介護ロボットはキャズムを越えられるか?
【No.32】産業用と異なるからこそ必要なこと
【No.31】介護ロボット販売で先にやるべきこと
【No.30】成功への第一歩はメニューに載ること?
【No.29】 過去のターニングポイントと面白い取り組み
【No.28】 平成30年度の介護ロボット予算で気付いたことは…
【No.27】ロボット活用に向けた施策で最も重要なことは…
【No.26】市場開拓にレバレッジが効く「1対N」のアプローチ
【No.25】介護ロボット市場の開拓にも必要なユーザー教育
【No,24】誰が介護ロボット市場を制するか?
【No.23】介護ロボット代理店の苦労
【No.22】ロボットビジネスのセグメント化
【No.21】「ニーズの違い(バラツキ)」とイベント企画
【No.20】施設が補助金に飛び付く前にやるべきこと
【No.19】施設にとってロボットの導入で最も重要なことは?
【No.18】ロボットをロボットとして見ているだけでは?
【No.17】ロボット市場への参入は凶と出るか吉と出るか?
【No.16】ロボットセミナーの開催で判明した顧客のニーズ
【No.15】潜在顧客から見た見守りロボット
【No.14】介護ロボットは6年前より増えたが、その一方【No.13】見守りロボットは是か非か?
【No.12】介護ロボットを活用する直接的なメリット
【No.11】ロボットに頼らない活用方法は?
【No.10】施設の介護ロボット選定の実態は?
【No.9】介護ロボット市場の開拓には?
【No.8】補助金政策による光と影
【No.7】補助金のメリットとデメリットは?
【No.6】自治体支援策の特徴は?
【No.5】ハードだけではなく、ソフト面も必要では?
【No.4】介護現場にロボットを導入するための要件は?
【No.3】なぜ、「普及はまだまだ!」なの
【No.2】介護ロボットの認知度は飛躍的に高まったが
【No.1】介護ロボットの普及を電子カルテと比べると