2018年 10月 30日(火)
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介護ロボット1台につき10万円まで補助してくれる介護ロボット導入支援事業(地域医療介護総合確保基金)は平成27年度にスタートしました。初年度は実施した都道府県が少なく申請件数もわずかでした。
某県ではわずか1桁という販売実績でした。
しかし、翌年の28年度には、その事業を実施した自治体が増えたと同時に、施設において認知されたこともあり、一気に申請件数が増えました。とは言うものの、28年度および29年度は、何度か追加の公募を行ってなんとか予算を使い切るという感じでした。
そして本年度(平成30年度)については、補助金の限度額が10万円から30万円に増額されました。そして何が起こったかと言うと、昨年度までとは異なり、早期に予算を使い切りました。
岡山市など一部の自治体では早期から独自の補助制度を導入していました。しかし、施設への補助制度が広まったのは、先に述べた平成27年度に始まった介護ロボット導入支援事業や1回ポッキリでしたが「介護ロボット等導入支援特別事業」の発表があってからでした。
その後は、様々な補助金制度が次から次と出てくるようになりました。
介護ロボット導入支援事業のような都道府県単位の補助だけではなく、神奈川県大和市や東京都世田谷区など市区町村でも独自の補助金制度を始めるようになりました。そのような背景もあり、施設にとっては「介護ロボット=補助金を使って購入するもの」という感覚になっているはずです。
これまでの動きを踏まえると、今後の市場はどのように動いていくのでしょうか?
まず、購入側の施設は、「買いたい!」というロボットがあっても、即購入することは控えて、補助金の公募案内を待つという態度を取るようになるでしょう。
次の補助金があるのか・ないのかがわからなければ、「今、買う!」という判断が十分に考えられます。ところが、「次回も確実にある!」となれば、「では、それまで待とう!」となるはずです。
購入時期を先延ばしにするというよりも、補助金情報が出てくるタイミングに購入するスタイルが定着するようになるでしょう。
施設には補助金を活用した「賢い買い物!」が浸透していく一方、メーカーや代理店にとっては通年営業活動をしても「売れるのは補助金の公募タイミングだけ」ということになるでしょう。
また、補助金の1台当たりの限度額が10万円から30万円に増額されると、「せっかくならもう少し高い製品を買おう!」「高い製品を買う方が得だ!」と発想する人が増えるはずです。
それはスーパーで普段なら価格が高くてなかなか手を出さない(売れない)刺身に、「半額シール」が貼られた途端、買い物客がどっと集まってくる現象と同じような消費者心理が働くからです。
本来ならマグロのぶつでも十分満足する人が、半額シールが貼られると、(半額になっても、まだ高いにも関わらず)大トロに手を出したくなる心理と同じでしょう。
つまり、60万円以上の比較的高額なロボットの販売にはプラスに働く一方で、10万円未満の安価を売りにしていた製品には逆風となりかねません。
もっとも安価でも見守り機器のように1施設が一度の購入で10台、20台以上と大量に購入してくれるような機器については「せっかくなら5台だけではなく10台購入しよう!」などと購入台数を増やすケースも考えられます。
来年度の平成31年度も本年度と同じように30万円の補助が出ると仮定すると、都道府県の予算枠が50%以上も増えない限り、次回は公募から1カ月以内に無くなってしまうような争奪戦になるのではないかと予想しています。
つまり、来年度は補助金の募集案内と同時に、即、施設に申請してもらえるよう今から準備しておかないと、せっかくのチャンスを逃してしまうのでは?
7月になってから申請しようとしても、「本年度はもう終了しました!」というメッセージが返ってくるだけではないでしょうか?
そうなると施設は、翌年まで半年以上も待つことになります。その間に新製品が発表され、次から次と別の事業者とも接触するようになるので、目移りしてしまいかねません。
今の流れだと、短期間に、広範囲に渡り、集中的に販売支援活動ができる体制が整っている企業が明らかに有利でしょう。なぜなら日本中の都道府県が4-5月に一斉に集中して補助金情報を発表して、短期間に各地から申請書が出てくると思われるからです。
そうなると、販売代理契約をしておらず自社3-5名の社員で全ての都道府県を同時期にカバーするのは大変です。明らかに不利な戦となります。
ちなみに、平成26年に実施された経済産業省のロボット介護推進プロジェクトでは同時期に一斉にロボットが導入されたために、対応が追いつかない(捌けない)という企業がありました。
来年度は、今から体制を整えておかないと、それと同じように一斉申請への対応ができないことになりかねません。
いずれにせよ、1)(例えばセミナーや勉強会などのキッカケを与えて)見込み客を集め、2)数回程度のフォローの後、3)購入を決断してもらい、4)台数を確定してもらい、5)法人内で稟議・起案してもらい、6)申請書の提出準備をしてもらいと、…4月(あるいは5月)の一斉申請に向けて、今から動いておく必要があります。
同時に、先に述べた通り、短期間に、広範囲に渡り、集中的に販売支援活動ができる体制を整えておかないと、年に一度のビッグチャンスを逃してしまいかねないでしょう。
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