2018年 12月 20日(木)

【キーワード】

  • 介護業務(オペレーション)の改善
  • 市場開拓

2010年から介護ロボットの仕事に関わっていますが、当初から腑に落ちないことがありました。それは今でも続いています。市場を取り巻く諸情勢はもちろんですが、顧客視点で考えれば考えるほどモヤモヤ感が出てきていたのです。

それは「ロボット」という括りであり、境界線というか区別、あるいは識別です。

ロボットやAIといった言葉が巷を騒がすようになり何年か経過しました。もともとロボットという大きな括りがあり、それは産業用とサービス用に区分されていました。

そのサービス用の中で今後の成長が期待される「介護向け」というジャンル(セグメント)が注目を浴びるようになりました。

次に何が起こったかと言うと、「今後、市場が大きく成長する!」「現場のニーズに合致するモノを開発すれば売れる?」という期待感から、機能面で勝負する機能志向の製品開発が積極的に進められるようになりました。

販売事業に参入する企業も増えてきました。それは今でも続いています。

また「良いモノを開発して下さい!」とものづくり補助金をはじめ、様々な開発補助金が出てきました。当然ながら、補助金というお小遣いがもらえる場には多くの企業が集まりました。

しかも、補助金を出す行政の業務は縦割りで、それぞれ個々にポケット(予算)があり、個々に縄張りがあり、個々が独自の方針の下で運営されているので、同じような補助金事業が五月雨式に出てきました。

そのため、企業は同じ企画を少し手直しすることで、あっちから1,500万円、こっちからは500万円、そして地元の○○市からは300万円などと資金を手にできるようになりました。補助金でDeep Pocketになれました。

また「市場に受け入れてもらえる良いモノを世に出すためには、開発の初期段階から現場の意見をよく反映させなければならない…」ということでニーズ・シーズ連携協調協議会をはじめ、あちこちで作り手と介護現場のニーズをマッチングさせる取り組みがはじまりました。

そのような動きが盛んになってきたことに加え、介護ロボットは嫌でも国際競争にさらされます。私のサイトのアクセス数の3040%は中国、韓国、アメリカなど海外からですが、彼らは情報を集めながら虎視眈々とビジネスチャンスを狙っています。

そういう海外勢も同様に介護ロボットを開発しているので、世界中のメーカー同士が切磋琢磨し、今後は必ず良いモノ(ツール)が出てくるはずです。

だだし、より安価で、よりコンパクトで、より機能面に優れた良いモノが出てきたとしても、それは業界が定義した製品(ロボット)の価値をもとに、その最大化に焦点を当てているにすぎません。

そういう良いモノ(ツール)さえ市場に出せば、それで解決するのでしょうか?

つまり、企業がロボットという境界内でひしめき合い、もっぱら自社製品の価値を最大化しよと躍起になっているわけですが、果たしてそれだけで買い手である介護施設が追求する課題の解決になるのでしょうか?

答えはNo!でしょう。いくら良いモノを与えてもそれらはどれもツールにすぎません。

では、そのようなツール(モノ)の使い方を習得してもらえばどうでしょうか?

それでプラスにはなってもそれだけで解決することはありません。ユーザー(介護施設)が使い方を習得しても、必ずしも上手に活用するようになるわけではないからです。

そのことにはもう既に多くの人が気づいているはずです。つまり、モノの提供だけではダメということ。

顧客視点に立って考えてみれば当たり前のことですが、介護施設はロボットが欲しいわけではないのです。モノ(ロボット)が欲しいのではなく、課題を解決したいわけです。

課題とは未達成の目標や未解決の問題となります。介護人材不足などの課題を解決したいわけです。

そんな課題解決の手段の1つとしてツール(ロボット)の活用があるわけです。なぜなら、人手で何でも行うのではなく、業務の一部でもツールを上手に使いこなせれば生産性向上に大きく貢献すると期待されているからです。

しかし、そのようなツールを有効活用してもらうためには、ツールだけではなくそれを上手に活用してもらうための術の提供が必要となります。でも操作方法や機能面の説明は、伝えるべき術の一部にすぎません。

さっさと結論を申し上げますが、本当に必要ことは、私は前々から介護現場の「オペレーションの改善(改革)」だと考えていました。

私は大学でオペレーションマネジメントを学び、大手外資系などでコールセンターなどオペレーション分野の業務プロセス改善プロジェクトをいくつもマネージャーとして担当しました。

その当時、グループ会社内の研修に参加しただけではなく、書籍を何冊も買い込んで勉強しました。そして最近、久しぶりに当時購入した書籍の1冊を手に取り、パラパラと読み返したところ、ある一文に目が留まりました。そこには次のように書かれていました。

本書ではオペレーションを「人間とITによって支えられた業務連鎖」という視点からとらえていきたい。

介護現場は、まさに「人間とITによって支えられた業務連鎖」の職場です。これまでは人の手が中心の業務連鎖でしたが、これからはそこにロボットやICTが占める割合が高くなるのです。そうでもしない限り生産性が向上しないからです。

だから、介護現場には(ロボットやICTの活用を前提とした)オペレーションの改善(改革)が必要であり、その活動の一環として「業務連鎖のどこに、どのようなツールを活用すれば良いだろうか?」というアプローチが求められます。

もっと正確に表現すると、「全体が最適になることを目指し、オペレーション改善(改革)の活動を行い、限られた資金を使って、どこに、どのようなツールを投入すれば全体プロセスが最適になるか?」という取り組みです。それこそが、介護ロボットの普及・市場開拓には必要ではないでしょうか?

モノの提供だけではなく、それを有効活用してもらうための仕組みの提供が必要ということです。その仕組みづくりで重要な役割を果たすのが、オペレーション改善(改革)に取り組むことです。しかも継続的にです。

そうすれば、今のように局所面だけを見て「ああだ、こうだ!」という段階から、大きくレベルアップすることができます。

また今のように「補助金が出るから買う!」「役所の人が良いって言っていたからウチもあれを使ってみたい!」などということはなくなり、自施設の課題や目標に合致したロボット選びをするようになります。

しかも、それを活用することによってオペレーション(介護業務)がどう変わり、どれだけの成果が得られたのかが「見える化」されるのです。

とはいうものの、民間企業がBPRBusiness Process Reengineering)プロジェクトに投入したような金額を、施設に求めることはあまりにも無理があります。

日系のちょっとした会社から入社2-3年目の若手コンサルタントを派遣・常駐してもらうと200万円/月以上の費用が発生するからです。それでは資金力が潤沢な一部の大手以外はとても負担できません。

しかもロボット化が進んだとしても、全自動システムではなく何かと人の介入が多い業務連鎖となります。だから生産性についてはどうしてもバラツキが出ることは必至であり、システム会社が行うITプロジェクトとは異なる要件が求められるでしょう。

そういったことを踏まえた上で、ロボット化やICT化を進める前提で「オペレーションの改善(改革)」をいかに、施設に自らの力で可能な範囲内で推進してもらえるようになるか?

これはちょっと難しい課題です。だから私がこれまで限られた時間内で行った講演やセミナーでは「見える化」について軽く触れる程度にしておきました。

でも、もう「介護ロボットって何?」という段階から次なるステージに向けて動き出さなければ、時間ばかりが過ぎていきます。そこで、それが今後のブレイクスルーに大きく貢献するのではないでしょうか?

繰り返します。ロボット化やICT化を進める前提で「オペレーションの改善(改革)」をいかに、施設に自らの力で可能な範囲内で推進してもらえるようになるか?です。

なお、介護ロボットを福祉用具の延長という視点でとらえている限り、介護業務(オペレーション)の改善という概念がなく、細分化された1業務のお助けツールとして見てしまうだけでしょう。

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