2019年 1月30日(水)
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私が社会人になった1990年代の初めは、職場にまだインターネットがありませんでした。出てきたのは1990年代の中頃。それからあっという間に普及して世の中を大きく変えました。
またアップル社のアイフォンが日本で発売されたのが2008年7月。暑い中、車を飛ばして千葉県茂原市のショップまで見に行った日のことを今でも覚えています。あれから10年半が経過。今では街を歩けば周囲はスマホを手にしている人ばかり。あっという間に普及しました。
さらに2000年代の初めのことですが、当時、関わっていたロジスティクスのプロジェクトで職場の仲間と共に琵琶湖近くにあるダイフク社の自動倉庫を見学させてもらいました。それは当時、最先端の倉庫でした。
倉庫については、当時からかなり自動化が進んでおり驚きました。今ではアマゾンが買収して手に入れた旧Kiva Systems社の庫内を自動で動き回るネットワークロボットに注目が集まっています。
それらの製品と比べると、介護ロボットについては普及に時間が掛かっています。今のままでは今後もまだまだ時間が掛かりそうな感じです。
私が神奈川県事業で介護ロボットの仕事に関わったのが2010年。その当時、スマホ所有者は決して多くありませんでした。しかし、その後の普及スピードは介護ロボットよりも遥かに速いものでした。
介護ロボットについては、これまで「価格が高い」「使い勝手が悪い」などと嫌になるほど否定的なことを聞かされました。でも、仮にそれらがある程度解決したとしても、まだ大きな問題があると考えています。
それは「見えていない」ことです。さまざまな事が「見えていない」のです。別の言い方をすれば「見えるようにする」ことが「モノづくり」以外の問題を大きく解決してくれるはずです。
先に紹介したダイフク社の自動倉庫については、導入時の初期投資にそれなりの費用が掛かりますが「before-after」の比較が容易です。
例えば、受注→在庫引当→帳票出力→ピッキング→仕分け→梱包→出荷といった一連の業務プロセスに関して、現在のコストや生産性が把握されていれば、自動化によって「どれだけ生産性が向上するのか?」ということが容易に予測できます。
また、それを人件費に換算すれば、(人手で行う場合よりも)どのくらいのコスト削減になるのかが見えます。
だから仮に今、投資という形で大きなお金が出て行っても、どのタイミングにその費用の回収ができるかがある程度見えるのです。将来の受注・出荷件数などの変動により多少の誤差が生じるはずですが、見えているので何かと安心して判断できるのです。
ところが、介護の場合は、施設における既存のオペレーションの現状把握ができていないケースが殆どです。つまり「Before」の状態がよくわからないのです。
だから、そこにロボットを部分的にあてがったところ、「After」については「個人の感想レベル」になりがちです。それに、部分というか局所面にすぎないわけです。
さらに難しいのは庫内業務のロボット化と異なり、単に生産性だけで良し・悪しを決めつけることができないことが挙げられます。
そこで、ちょっと考えてみましょう。
少し話は逸れますが、例えば体重80キロの若い女性がダイエットにチャレンジして50キロの細身になったら、どうでしょうか?
変化したことは、必ずしも「体重」という物理的なことだけではなかったはずです。「体重」というKPIだけでは測ることができない「嬉しいこと」があったはずです。
それは、痩せて男性から声が掛かるようになったことかもしれません。自分に自信が持てるようになった、前向きになったという感情面の大きな変化かもしれません。健康面にも嬉しい変化があったことでしょう。このように変わったことは、体重だけはないのです。
この例と同じように、人が人をケアする介護現場の場合においても、モノを扱う製造業のように、コスト・生産性・サービスレベルといった指標(モノサシ)だけで評価することができないのです。倉庫のロボット化と同じアプローチでは、なかなか上手くいかないのです。
そこで必要なことは、これまで「見えていなかったこと」を見えるようにすることです。「なんとなく」を見えるように変えることです。
先のダイエットにチャレンジした女性の例だと、体重だけではなく、感情面や健康面などの変化についても見えるようにすれば良いのです。それについては、何かしらの方法で点数化して自己診断・評価すれば良いのです。
そうすることで体重の変化以外にも、ダイエットの成果がより「見える化」されます。より見える化されれば、本人にとっては嬉しい限りです。
ダイエットの商売をしている「売り手」の人にとっても有り難い話です。なぜなら売り込みの活動が容易になるからです。「売り手」と「買い手」が同じ目線・基準で会話をすることができるようになるからです。
では、少しでも施設に「見えるようにする」「見えるようにしてあげる」ためには何が必要でしょうか?
それには「要件定義」が必要であると考えています。
ただし、一般的なシステム導入プロジェクトで行う要件定義とは異なり、施設が何を目指すかによって定義の対象や内容が異なるはずです。
しかも、職員個人、利用者、施設と異なる立場があることを踏まえ、どの立場をどの程度まで重視するのかによって定義の内容が異なります。
これについては、例えば施設の生産性が向上する一方、利用者の満足度が下がる場合などがあります。こういうケースについてはどう評価すべきかという基準をあらかじめ明確にしておくことです。
この件に関しては、これ以上書くと長くなるので止めておきますが、結局のところ、必要最低限のレベルでも構わないと思うので、まずはオペレーション全体の現状把握が不可欠となります。同時に、「一体、何を求めているのか?」を明確にした上で、一定レベルの要件定義が必要だと考えています。
「何を目指しているのか?」を踏まえた上で要件定義を行えば、ロボット活用後の姿をある程度「見えるようにする」ことができます。そうすれば「ロボットをどう活用するべきなのか?」がよりよいハッキリします。少し大きなお金が出ていく投資に対しても、後にそれがどう活かされるかが見えれば安心感が出てきます。
今のように「補助金で手に入るなら、ウチも購入してみようか?」という状態から大きく前進することができます。
ただ問題は、施設がそのような不慣れなことを「自らの力だけで出来るのか?」ということです。そこで、まずは第三者が支援して「見えるようにしてあげる」「要件を定義してあげる」ことが不可欠ではないでしょうか?
そのためには、今のようにA社はaという機種を、B社はbだけを、そしてC社はcだけを・・・とバラバラにアプローチする以前に、施設に対してオペレーション全体を「見えるようにしてあげる」ことです。
同時に要件定義についても支援してあげる必要があるはずです。
ちなみに、今、行政の委託事業で大学やシンクタンクなどが施設内の作業分析を行っています。
ただ、あまりアカデミックな方法で作業分析などを行ったところ、基礎データとして使うことはできても、施設は実験の場として利用されるだけ。彼らに結果は知らされても、ノウハウは残らないのです。しかも、その分析対象はごく一部の施設だけ。それでは広がることがありません。
そこで、赤子に最初の2~3歩の踏み出し方を教えるように、ほどほどに支援してあげるのです。それ以降は施設が自らの力で業務の改善を進めることができるようになってもらうのです。
介護市場に販売事業者として新規参入したい
業務改善を推進する施設になればロボットを上手に活用できる
まもなく公開予定です(近日公開)