2019年 2月27日(水)
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これまで計100回以上になります。それは、企画担当あるいは講師として、私が介護ロボット関連のイベントに関わった回数です。行政主導のイベントだけではなく、民間企業が主催したものにも関わりました。
また、介護ロボット以外についても、個人事業主から大手企業が主催するものまで、様々なイベントに注意を払ってきました。
今、多くの業界ではマーケティング活動の一環として「イベント」が企画・開催されています。イベントを開催することが有力な集客手段になっているのです。「イベント」というよりセミナーと言った方が良いかもしれません。
数日前は都内で開催された大手新聞社主催のセミナーを途中まで聴講しました。立派なタイトルが付いていましたが、企業担当者が次から次と登壇するプロモーション(宣伝)目的のセミナーでした。そのことは、はじめからわかった上での参加でした。「ウチの○○を使えば、こんなことが可能になります!」「ウチの○○で○○の問題が解決できます!」という話の繰り返しだったのです。
新聞社が「○○セミナー」と称し、彼らの媒体の購読者に案内し、開催したのです。新聞社の広告については、「純広」と呼ばれる広告枠を用意する方法が一般的です。セミナー形式は、新聞社が用意した純広とは異なるプロモーションと言えるでしょう。
民間企業が無料あるいは5,000円以下の格安セミナーを開催する際は、殆どのケースにおいてこのようなプロモーション目的かと思います。つまり登壇者に売り込み(宣伝)の機会を与えることが目的のセミナーということです。
ネットマーケティングに長けた人は、グーグル広告やFacebookのようなSNSをフルに活用しますが、結局のところ見込み客を集めたセミナーを通じてクロージングすることが常套手段になっています。
また、出版を販促に利用している人たちについては、書籍を使って見込み客を集めますが、クロージングではセミナーへ誘導することが一般的です。さらに、会員制ビジネスの手法を駆使し、上手に商売している団体(表向きはNPOや一般社団のことも)では、新規会員獲得を目的に積極的にセミナーを開催します。世間からよろしくない評価を受けている「あるビジネス」についても、イベント(セミナー)を通じて集客することが常識となっています。
このようにセミナーは、多くの業界でとても重要な役割を担っています。当然ながら介護ロボットの販売活動においてもセミナーを開催すれば、素晴らしいマーケティング活動を展開することが可能です。
でも、セミナーを開催すれば良いという訳ではありません。セミナーの企画・開催には、「上手い」「下手」の差が大きいのです。
大手企業だから上手いということは全くありません。私が過去に見てきた限り、小さな会社の方が上手いケースが遥かに多いと思っています。大手の方が下手なのです。
ちなみに「上手い」とは、講演者の話が上手いということではありません。ありきたりなアンケート用紙によく見られる「かなり満足・満足・普通・やや不満・かなり不満」という5択の「かなり満足」欄にチェックを入れた人の数が多ければ良いわけではありません。
上手い人は、セミナーを開催する目的がハッキリしています。当然ながら、「誰に来てもらうべきか?」「来場者に次に何をしてもらうべきか?」ということが明確になっています。あらかじめ、きちんと導線が設計してあり、アンケートの活用方法についてもその導線上に上手く組み込まれているのです。
つまり、セミナーの開催が単発のイベントではなく、一連のマーケティング活動として上手に企画されているわけです。
だから、民間企業が主催するプロモーション目的のセミナーについては、仮に参加者全員がアンケートの「かなり満足」欄にチェックを入れたとしても、次なるステップへコマを進めてくれる人が誰もいなかったら、「セミナーは大失敗だった!」という判断になります。
というか、企画側が次なるステップへの誘導を用意することなく、単発のイベントとしてセミナーを開催していたら上手くいくはずがないのです。
私が見てきた限り、上手なセミナーを運営する人は「満足」「不満足」を問うアンケートを行いません。行ったとしても、あくまで当初の目的が達成できたかどうかを測定する、あるいは次なるアクションにつなげるための内容しかアンケート用紙に記載されていないのです。
説明が非常に長くなってしまうので、具体例については説明しませんが…。
一方、下手なセミナーの多くは「開催すること」が目的になっています。介護ロボットを使うことが目的になってしまうことと同じで、セミナーを開催することが目的になってしまうのです。セミナーが単発のイベントになっているのです。
アンケートについても、「かなり満足・満足・普通・やや不満・かなり不満」を問うばかり。目的が曖昧なまま、儀式のごとく行われているケースが殆どです。
実は、これではアンケートを行う意味がまるでないのです。「かなり満足・満足・普通・やや不満・かなり不満」を参加者にアンケートを通じて確認したところ、数字に一喜一憂するだけであり、本当の問題が不明なので、何も改善につながらないからです。
ただし、「複数の登壇者における人気投票(比較)を行う」「定点観測を行う」ような場合は別です。
では、行政が行うようなプロモーション(宣伝)目的ではないセミナーについては、アンケートをどのように活用すべきでしょうか?
本当の問題がわかるようにするためには、どのようなアンケートを作成するべきでしょうか?
そのために、まずは参加者にセミナーに来た目的を確認する(自由回答してもらう)べきだと思っています。それを踏まえた上でその目的がセミナーを聴講することによって達成できたかどうかを確認すべきでしょう。
そうすれば参加者が何を求めセミナーに来たのか判明します。「○○を学びに来た」と目的意識がハッキリしている人もいれば、「補助金を貰っているので仕方なく来た!」という人もいるはずです。
また、企画側が意図した内容と異なる目的意識を持って集まる人が多いことがわかれば、チラシなどに記載した表現が良くなかったことがわかります。介護ロボットのセミナーによくありがちですが、「ロボット」と記載されているので技術の話を聞きに来たつもりが、活用の話だったら「かなり不満」と評価されてしまうのです。
講師には何も責任がないのに、アンケートでは「かなり不満」と評価されてしまいます。
また、セミナーの内容がどんなに良くても、参加者が受付担当者に不満があった、休憩時間のトイレが混んでいた、会場が古くて汚かったことなどに対する不満(イライラ)の矛先がアンケートに向けられることがあります。
そうなると、セミナーの内容に関係なく「不満」と評価されることになります。殆どの人はアンケート用紙の質問を斜め読みし、さっと適当に回答するからです。
ところで、「カスタマーエクスペリエンス」という言葉があります。冒頭で紹介した都内で開催されたプロモーション目的のセミナーのテーマが、まさにカスタマーエクスペリエンスだったのです。
カスタマーエクスペリエンスにはポイントがあります。顧客(カスタマー)は商品・サービスそのものだけで評価するわけではないということです。
例えば、小売業の場合だと、商品そのものだけではなく、アクセス、駐車場、店員の対応、トイレなど、さまざまな場面における「体験(エクスペリエンス)」によって評価が下されることになります。
商品・サービスの良し・悪しだけではなく、顧客と初めての接点から「体験(エクスペリエンス)」が始まっているというです。
これはセミナーを開催する場合でも同じでしょう。だから、本当は講師よりも企画・運営側に問題があるケースであっても、アンケートの結果だけをみると講師が悪者になりがちです。企画・運営側の問題にも関わらず…。
逆に、ハウスメーカー主催の住宅セミナーのように「松阪牛が貰えた!」という理由から、講師の話にはまるで興味がなかったにも関わらず、アンケートには「かなり満足した」と評価する人もいるでしょう。
介護ロボット関連のセミナーによく見られますが、ターゲットの設定が曖昧である、あるいは「チラシ」の作り方や記載内容が不十分なため、属性が全く異なる人が集まるケースがあります。例えば「開発者もユーザー(施設職員)も一緒くた!」という場合です。
開発者はロボットの「要素技術の話」を聞くつもりで参加した一方、施設の人は「どうしたら上手く活用できるようになるのか?」について知りたくて参加する場合があります。
このような場合、同じ話を聞いても、片や「かなり満足」でも片や「かなり不満」と評価されます。
同様に、同じように介護施設の職員であっても、片やノウハウ・スキルを身につけることに関心がある一方、片やそんなことにはまるで興味がなく、ヨドバシカメラに多数の最新テレビを見にいく感覚でロボットのイベント(セミナー)に来るかもしれません。
当然ながら、ヨドバシカメラに最新テレビを見にいく感覚で来場した人は、セミナー講師の話にはハナから興味がないので、評価は低くなります。
本当は「ターゲットの設定が悪い」「チラシの出来が悪い」「無理に参加されられた…」などと企画・運営上の問題にも関わらず、アンケート結果だけを見ると講師が悪者になってしまうのです。
また、参加者自身に問題があると思われる場合もあります。
例えば、私が事務局を担当したあるセミナーがありました。そこでは、講師が「FDAが…」などと海外の団体名を何度か説明の際に口にしました。その時のアンケートでは、参加者の1人が「英語ばかりを使わないで、日本語を使って欲しかった!」と記入。評価については「かなり不満」にチェックされていました。
このように、参加者の知識や能力に問題がある場合においても、講師の評価が低くなりがちです。
以上のことから、行政などがプロモーション目的とは異なるセミナーを開催する際は、まずは参加者にセミナーに来た目的を確認する(自由回答してもらう)べきだと考えています。それを踏まえた上でその目的がセミナーを聴講することで達成されたのか、を確認すべきでしょう。
そうすれば、本当の問題がわかるようになり、改善につながるからです。
つまり、最初の質問1)では「本日は、どのような目的で○○セミナーに参加されましたか?」と自由回答式にするのが良いのです。この質問を3択や5択にすると、それに誘導され、人は与えられた選択肢の中から選ぼうとします。だから自由回答にするのです。
その後、質問2)で「質問1で回答した目的は、達成できましたか?」と問い、「かなり達成できた・やや達成できた・やや達成できなかった・殆ど達成できなかった」から選んでもらいます。
そして、質問3で「質問2に関し、その理由はなぜだと思いますか?」と問うのが良いでしょう。
さらに、「本日一番の学びや気付きについて教えて下さい」と質問するのです。
シンプルながらも、このようにアンケートを行えば、参加者が何を期待していたのかがわかります。「企画側と参加側のギャップが何か?」がよくわかります。
「チラシの記載内容が曖昧で参加者が勘違いしたのか?」「はじめから、企画側の意図とは異なることを期待して参加した人が多かったのか?」などについてもわかります。
企画側と参加側のギャップが判明すれば、PDCAを回すことができるのです。
ところが、「本日のセミナーはいかがでしたか?」という問いでは、企画側と参加側のギャップがわからないまま。不満が全て講師(アンケート)に向けられてしまうだけ。
ところで、民間企業がプロモーション目的でセミナーを開催する場合、どのように介護ロボットセミナーを開催すべきでしょうか?
それは「これから客」向けのセミナーになるということです。
先に紹介したカスタマーエクスペリエンスのセミナーは、「今すぐ客」を対象にしていました。登壇した講師の一人は、ファネル、セグメンテーション、KPI、LTV、3rd partyなどの専門用語を平気で使っていました。聞き手がある程度マーケティングに精通していることを前提に話をしていたのです。
マーケティングの知識だけではなく、類似の商品を過去に使ったことがあり、経験値の高い参加者が集まっていることを前提に話をしていたのです。このような場合、参加者は「Aにするか?」「Bにするか?」「Cにするか?」で悩んでいるケースが多く、「今すぐ客」となります。こういう人を対象にしている場合は、商品を見せて説明すればそれで良いのです。
ところが、「これから客」については、「介護ロボット販売で先にやるべきこと」のコラムにも書いた通りですが、ユーザーを教育するという1つ前のプロセスが必須となります。
教育するというプロセスがないまま、「今すぐ客」への対応と同じようにズラリと展示会の如く商品をいくつも並べ、「ああだ!こうだ!」と機能面を説明しても、なかなか上手くいかないはずです。
介護ロボットについては、まだまだ不慣れな施設が殆ど。市場の特性もいわゆる一般企業とは異なります。だから、企業向けと同じやり方では上手くいかないはずです。既存のやり方(企業向けと同じやり方)に品目追加するような企画を打ち出す限り、上手くいくことはないはずです。
介護市場に販売事業者として新規参入したい
まもなく公開予定です(近日公開)