介護ロボットの着眼点(No.39)

縦割りの弊害とカニバリゼーション

2019年 3月29日(金)

【キーワード】

  • 脱ロボット化
  • ロボットホテル
  • 縦割り
  • 補助金

来週からは新年度となる2019年度事業がスタートします。また、新元号の発表もあり、4月からは何かと新しい1年になりそうです。

さて、都道府県の新年度の事業計画をいくつかチェックした上で感じたことがあります。それは、昨年のこの時期にも指摘した内容と同じですが、脱ロボット化の動きが進んでいることです。

脱ロボット化というよりも、「ロボット」に変わりICTIoTという表現が好まれるようになったという方が正確です。介護現場へいきなりロボットを普及させることは難しいので、自治体の支援内容が「IT化が先かな?」という発想に変わってきている感じです。

「順場が逆であることに、ようやく気づいてきたのかな?」と思いました。私は、介護現場をいろいろと見て、前々から介護現場にいきなり高額で高機能のロボットを普及させることは、かなり難しいと感じていました。

市場のあらゆる条件が異なるので、とても製造業と同じ感覚では上手くいきません。いきなり「ロボットを!」と勧める前に、「他にやるべきことがあるだろ!」ということを当初から感じました。

製造業向けの販売と同じ感覚で、介護施設に出向き、職員に操作方法を伝える活動では、とても市場の開拓が難しいことも前々から指摘していました。

振り返ってみると、ロボットブームの到来や介護人材不足の問題などの背景に加え、企業からの積極的な働きかけもあり、「介護現場にロボットを!」という動きが始まり、それが全国に広がりました。

そして、2013年~14年頃から始まった本格的なロボットブームの追い風もあり、国や自治体が次から次と補助金制度を手厚くするようになりました。それは4月から迎える新年度も継続します。

ところが、どこも「まだまだ苦労している」という状態であり、私が9年前の2010年に神奈川県事業で介護ロボットの仕事に関わり始めた当時と比べ、介護現場の景色が大きく変わったかというと、「変わったが、それほどでもない!」というのが実感です。

政策に関しては「少し遠回りしたのでは?」という印象があります。

ロボットの普及については、分野別にバラツキがありますが、介護分野についてはなかなか進んでいません。

先日読んだある新聞記事によると、ロボットホテルとしてメディアに何度も繰り返し取り上げられた「変なホテル」でさえも、目玉のロボットの数は大幅に減らされているとのこと。

例えばチェクインロボットは残した一方で、荷物搬送ロボットなどは廃止しているそうです。ロボットの活用を積極的にプロモーションしていたホテルが、広告塔を担うロボットをリストラしているのです。

 

私は昨年の夏に変なホテルに泊まりました。また、都内にある変なホテルを3カ所ほど現地でチェックしましたが、チェックインロボットは、人が行うチェックイン(フロント)業務を肩代わりするわけではありませんでした。

「あの~、今晩、予約を入れている関口ですが…」などとロボットにふざけて話しかけても相手にしてくれませんでした。銀行のATMを操作するごとく、端末のタッチバネルを自ら操作しなければなりませんでした。

そして、ロボットは、タッチパネルの操作と連動しており、日本語の画面を選んだ人には「いらっしゃいませ」、英語を選んだ人には「Welcome to…」などと声がけしてくれるだけでした。

 

2013年頃からブームが始まったロボットですが、下馬評の通り、サービス分野は苦労しています。また、ロボットの普及が全ての分野において同じスピードで進んでいるわけではなく、分野によってスピードにかなりの差が付いてきた感じがします。

介護分野については、まだまだ時間が掛かりそうです。しかし、別の見方をすれば、やり方次第では、未開拓な大きな市場を切り開いていける可能性があります。これまでは、製造業向けのやり方をそのまま介護業界に展開していただけですから。

ところで、本日のテーマは、「縦割りの弊害とカニバリゼーション」となっていますが、縦割りの行政には何かと問題があると痛感しています。

仕組みがある程度出来上がったことを実行する際には、縦割りで役割を分担しながらスムーズに物事を推し進めることができますが、介護ロボットの普及のような未知の新しい分野にチャレンジする際には、弊害が目立つと考えています。それは、同じようなことを、あっちでもこっちでもバラバラに行っているからです。ムダが多いのです。

 

例えば、些細なことかもしれませんが、「同じようなアンケートを国からも、県からも、市からも受け取った」という不満の声を介護施設の人から何度も聞いたことがあります。こういう市場調査がバラバラに行われます。縦割り組織で予算も別々だからです。施設の担当者は、同じ質問を、それぞれ個別に回答することなり手間ばかりが増えたはずです。

 

同様に、フォーマルな情報共有の仕組みがないまま、似たような実証事業やイベントがあちこちで行われています。まさに縦割りの弊害であり、カニバリゼーションと同じ問題が生じます。実は、それによって恩恵を受ける人もいるのですが…。

また、弊害ということに関しては、行政が出すぎる・やりすぎると、民間の購買や成長などの機会を奪うことにもなります。

328日付の日本経済新聞には「中国の電気自動車メーカーが補助金頼みの事業モデルから抜け出せていない」との記事が掲載されていましたが、介護ロボットも同様です。今のままでは、作り手(開発)だけではなく、売り手や買い手までもが補助金頼みから抜け出せないまま、当初の期待感とは裏腹に、時間ばかりが経過していくかもしれないことを心配しています。

何でも行政が主導し、…というやり方だと、民間の成長や活躍の機会を奪うことになります。これは、税金で運営されている団体が無料の弁護士相談を実施すればするほど、一般の弁護士事務所のビジネスを奪うことになり、ハローワークが紹介業務を広げすぎると、リクナビやビズリーチのようなサービスの成長機会を奪うのと同じです。

縦割りの弊害を無くし、かつ補助金に頼らなくも企業の成長を促し、市場が成長するための施策を検討していただきたいものです。

単に購入時の費用を補助するバラマキだけでは、一時的に小さな市場が形成されますが、企業や施設の成長を促すことにはなりません。また現行の福祉用具の制度とは異なるものが必要では? さもないと、補助金頼みのままになりますから。

介護市場に販売事業者として新規参入したい