デジタル・トランスフォーメーション、略してDXは、技術を活用して組織の業務プロセスを変革し、サービスを向上させる動きを指します。
介護ロボットやICTの普及についての講演を行っていた私は、2016年にはこれらの技術が介護現場にも大きな革命をもたらすことを強調していました。「今後、デジタル・トランスフォーメーションという言葉が流行る」と講演で予言していましたが、2020年のコロナ騒動を境にその予言が現実のものとなり、DXの重要性が広く認識されるようになりました。
DXの普及が進むにつれて、地方自治体はこの波に乗り遅れないよう専門部署を設けるようになりました。例えば、静岡県沼津市では政策推進部内に「ICT推進課」が設置され、神奈川県相模原市の市長公室には「DX推進課」が新たに設けられました。
東京都世田谷区では、「Re・Design SETAGAYA」プロジェクトを通じて行政サービスのデザインと再構築が進行中です。これはほんの一例ですが、国全体のDX推進戦略に沿って、地方自治体も積極的にDX化を進めており、「自治体DX」という言葉が日常的に使われるようになりました。
地方自治体のデジタル・トランスフォーメーションは、主に二つの主要な取り組みに分けられます。
第一に、自治体内部の業務プロセスのデジタル化があります。このアプローチには、紙ベースの業務の電子化やデータ管理システムの最適化が含まれ、これによって行政の業務効率化とコスト削減が実現されます。これらの施策は民間企業でのDX推進と多くの共通点を持ちます。
第二に、住民向けサービスのデジタル化です。民間のBtoC事業者とは異なり、自治体はすべての住民に対してサービスを提供する必要があります。この取り組みには、特にスマートフォンアプリを利用した行政サービスの効率化が含まれます。例えば、住民票の発行や税金の申告など、以前は対面で行う必要があった手続きを、アプリを通じて完結できるように設計しており、住民の時間と労力を節約します。また、アプリには通知機能が備わっており、手続きの進行状況や必要なアクションをリアルタイムでユーザーに伝えることが可能です。
このデジタル化は、特に移動が困難な高齢者や遠隔地に住む住民に大きなメリットをもたらします。これにより、彼らが公的サービスを容易に利用できるようになります。さらに、自治体はこれらのアプリを通じて得られるフィードバックを活用し、サービスの質を継続的に向上させることが可能です。
これらの取り組みは、地方自治体がデジタルサービスを効果的に導入するために不可欠です。デジタルアクセスの公平性を保ち、すべての市民が安全にデジタルサービスを利用できるようデジタルスキルの向上が重要です。
特に高齢者に対しては、初めから機能が複雑な多機能アプリを提供することが不安や抵抗感を引き起こす可能性があるため、簡単な機能から始めて徐々に機能を追加する段階的なアプローチが有効ではないでしょうか。利便性を高めるためには多機能アプリが有用ですが、初期段階での簡易性が受け入れを容易にし、その後段階的に機能拡張を促進することが、スムーズな普及につながります。
このようなアプローチでデジタルアクセスの格差を解消することで、高齢者も含めたすべての市民がデジタル化された行政サービスのメリットを十分に享受できるようになります。
さらに、安全で信頼できるデジタル環境と透明なプライバシーポリシーの整備により、市民は新しいデジタル方式に自信を持って取り組むことができます。これにより、高齢者を含むすべての市民が、デジタル化による便利さと効率性を最大限に活用できるようになります。
地方自治体のデジタル・トランスフォーメーションは、単なる技術的な更新を超えて、市民の生活の質を向上させ、公共サービスのアクセシビリティを全面的に拡大する絶好の機会を提供します。したがって、これらの課題に対する戦略的かつ慎重なアプローチは、地方自治体にとって重要な責務です。市民一人ひとりが公平にサービスを利用できる社会を実現するために、地方自治体はデジタル化の波をただ受け入れるのではなく、積極的にその先導をする必要があるかと思います。
まもなく公開予定です(近日公開)