週刊東洋経済の2024年5月11日号の第1特集の「溶ける地方創生マネー 喰われる自治体」というタイトルの記事を読みました。
30ページ以上も割いているこの特集記事では、地方創生マネーが都会のコンサルに吸い上げられていく実態など、地方創生の虚構を描き出しています。記事の骨子は、この10年、政府は膨大な地方創生予算を組んできたにも関わらず、「創生できた」という話はほとんど聞こえてくることなく、地方創生マネーが都会のコンサル会社に吸い上げられてきたのが実態であるということです。
この記事の冒頭では、総務省の「地域力創造アドバイザー」という肩書を持って、地方自治体に地方創生のやり方を説いて回っていた宮城県多賀城市にある企業の社長(当時)の自治体を喰い物にしたようなビジネススキームについての説明がありました。
それは、企業版ふるさと納税を利用した企業が、税控除などの恩恵を受けた上、寄付した金が還流されるというスキームです。これは寄付をした企業が自治体の事業を受注することで実現します。
この特集では、地方創生マネーが都会のコンサルに吸い上げられていく実態だけではなく、補助金やコンサルに頼ることなく、喰われないまちづくりに取り組んだ好事例も紹介されていました。
現在の地方創生政策にはいくつかの問題点が存在します。まず、週刊東洋経済の記事に指摘されている通り、地方創生マネーの多くが都会のコンサルタント会社に流れ、地方のために使われていない現状があります。
これは、地方自治体の職員が専門知識やノウハウを持たないこともあり、安易に外部のコンサルタントに依存してしまう構造的な問題に起因していると考えています。しかも、一般企業と異なり自ら稼ぎ出したわけではなく国から流れた資金を使うだけなので、コンサルやシンクタンクに依存しがちなのです。
「県庁はシンクタンクです。野菜を売ったり、牛の世話をしたり、モノを作ったりということと違って、皆様方は頭脳、知性の高い方たちです」などと訓示して批判を浴びて辞職に追い込まれた県知事がいましたが、市町村レベルになると日常業務にてんやわんやの毎日でシンクタンク的な機能はあまりないようです。
また、地方創生のための予算が各地域の実情に合わせて柔軟に使われることが難しいという問題があるのでしょう。中央政府が一律に決めたルールや条件に縛られ、地域ごとの独自のニーズや特色を反映させることができないため、効果的な施策が打ち出せないことが多いかと思います。さらに、予算の使途が曖昧で、効果測定が十分に行われていないケースが多いためか、結果的に「創生できた」という実感が得られにくい状況かと思います。
これらの問題を解決するためには、いくつかの新たな政策提案が考えられます。まず、週刊東洋経済の特集記事の中に「コンサル丸投げ型から人材投資型への転換を」とのタイトルの記事がありましたが、地方自治体の職員や地元のリーダーに対する専門的な教育やトレーニングを強化し、外部に頼らずとも自立的にプロジェクトを運営できる体制を整えることが必要ではないでしょうか。そのためには、例えば、地域力創造に精通した人からノウハウを伝授してもらう仕組みを強化することが考えられます。
また、地方自治体が直接資金を管理し、地元のニーズに基づいて柔軟に予算を配分できる制度を導入することも重要ではないでしょうか。これにより、地域ごとの独自の施策を実施することが可能になり、より実効性のある地方創生が期待できます。
さらに、地方創生の成果を客観的に評価し、その結果を公開することで、透明性を確保し、予算の効果的な利用を促進することも重要です。例えば、一般企業が行っているKPIのような指標を導入し、その結果に基づいて予算配分を見直す仕組みを構築することで、より効率的で効果的な地方創生の実現が可能なはずです
最後に、他国の成功事例を参考にすることも有益です。例えば、北欧諸国では地方自治体が強い権限を持ち、地域ごとの特色を活かした政策を実施しているようです。こうした成功例を分析し、日本に適用できるポイントを見つけ出すことが、今後の地方創生の一助となるでしょう。
以上のような政策提案を通じて、地方創生が真に地方のために機能する仕組みを築くことが求められると考えています。都会のコンサルタントに頼るのではなく、地元の力を引き出し、地域が自立して発展するための新たなアプローチが必要です。また、補助金依存を脱却し、地域の実情に即した施策を実現することで、持続可能な地方創生が可能となるはずです。
最後に、今回のコラムでは地方創生マネーが喰いものにされているという週刊東洋経済の特集記事を紹介しましたが、補助金依存の介護ロボット購入に関しても似たような問題が起こっていると考えています。多くの介護ロボットは補助金に依存して購入されていますが、実際には現場で十分に活用されないケースが多々見受けられます。原因としては、「補助金で買える」と急かす業者が多数存在する一方、その話に安易に乗ってしまう施設側の姿勢が挙げられます。
このように、補助金に依存した無計画な購入は、結果として効果的な資金活用を妨げるだけではなく、税金の無駄遣いとなる可能性があります。しかも、余計な仕事が増え、本来の介護サービスの質が低下する恐れすらあるのです。補助金の使い方にも慎重な計画と検討が必要であり、地域のニーズに合致した適切な導入が求められます。
【No.50】公務員の常識を覆すDX戦略の現場から
【No.49】地方創生マネーの実態と課題
【No.48】地方自治体のデジタル変革:市民サービスの改善への道
【No.47】介護分野の労働危機を社会の転換点へと変える解決策
【No.46】介護予防事業の問題点と克服への道筋
【No.45】補助金が、自主性や積極的な改革の意識をダメにする?
【No.44】介護ロボの普及:国や自治体の補助金政策は何が問題なのか?
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【No.41】販売事業者は、どのようにセミナーを開催するべきか?
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【No.39】縦割りの弊害とカニバリゼーション
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【No.34】平成31年度の補助金は早期争奪戦か?
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