介護ロボットの着眼点(No.50)

公務員の常識を覆すDX戦略の現場から

~東京都のデジタル革新~

2024年 6月28日(金)

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去る6月26日(水)、東京ビッグサイトで東京都副知事の宮坂学氏の講演を聴講しました。『「共同化」で進める自治体DX』というタイトルでしたが、宮坂氏が都庁に入ってからDX化に向けて取り組んできたことや今後の方向性について語られました。

まず、宮坂氏についてお伝えしたいことは、多くの人が抱く副知事や公務員のイメージとは大きく異なるということです。服装からして、ポロシャツにジーンズ、靴はスニーカーというラフなスタイルで登壇されました。話し方も「お堅い」イメージからは程遠く、親しみやすい雰囲気でした。

宮坂氏は講演の冒頭で、5年前の2019年に都庁で初めて会議を開いた際のエピソードを語りました。驚いたことに、どの職員も大量の書類を挟めたバインダーを持ってきただけで、会議にパソコンを持ってくる人はいなかったそうです。宮坂氏は、20年前(つまり、1999年?)からパソコンを使って会議に参加するのが当たり前だったため、大きなショックを受けたとのことです。

ちなみに、宮坂氏は、1997年にヤフーに中途入社し、その後は社長や会長を歴任した人です。本人曰く、「東京都庁へ営業しに行った際、『それを都でやってみないか』と言われ、2019年7月に東京都に参与として入り、同年9月に副知事に就任した」とのこと。だから、新卒で都庁に入庁し、副知事まで出世した人たちとはキャリアを積んだ環境が異なるためか、発想も大きく異なるのです。

宮坂氏は2019年から都庁の副知事として都のDX化を推進し、2021年からはICT職の採用を開始しました。当初は7人しかいなかったデジタル人材が、現在では190名以上に増えています。また、「都庁DXアワード」を開催し、東京62の区市町村とも連携しています。今月24日に開催された「都庁DXアワード」の式典では、小池知事から知事賞が、宮坂副知事から特別賞が授与されました。

さらに、宮坂氏は「GovTech東京」という財団の理事も務めており、“情報技術で行政の今を変える、首都の未来を変える“というビジョンを掲げています。デジタルの力で都民の生活を豊かで便利にするため、自治体や民間企業と連携し、東京都全体のデジタル化を目指しているのです。

なお、「GovTech東京」のホームページに以下の記述を見つけましたので、そのまま転記します。

デジタルはあらゆる人や情報をつなぎ、都民の豊かで便利な生活を実現する大きな可能性を秘めています。

その可能性を最大化するため、GovTech東京は、東京都や区市町村等の自治体や民間企業をはじめ、東京で生活・仕事をされている方々を顧客と定義し、従来の都庁のデジタル化から領域を広げ、東京都の62区市町村のニーズに応じ東京全体のデジタル化の実現を目指します。東京都及び東京の区市町村、ひいては、日本のすべての自治体に貢献するため、東京都との協働体制で6つのサービスを展開していきます。

東京都はまた、「東京デジタルアカデミー」というサイトを運営しており、デジタルについて学べる動画や資料を提供しています。宮坂氏は、このように複数の取り組みを通じて、都庁のみならず、東京の62区市町村のデジタル化も推進しています。都庁のデジタル化を起点に、東京全体のデジタル化を目指しているのです。

宮坂氏は常に「必ずデジタル化しなさい」と都庁職員に伝えているそうです。講演の前半では、DX化について本屋を例に挙げて説明していました。本屋がデジタル化することで、ネット通販が始まり、その後、収集したデータが本を販売する以外にも活用されるようになるといいます。つまり、まずはデジタル化してみることが重要であり、それが新たな可能性を引き出すことにつながるのです。

繰り返しますが、宮坂氏がいわんとしたことは、まずはデジタル化してみることが、結果として、当初は見えていなかった可能性が見えてくるということです。だから、「必ずデジタル化しなさい」と職員に伝えているのでしょう。

また、宮坂氏はDX化の普及についてイノベーター理論を用いて説明しました。この理論では、新たな製品の普及過程を、採用タイミングに基づき、以下の5つのタイプに分類しています:

  • イノベーター(革新者):2.5%
  • アーリーアダプター(初期採用者):13.5%
  • アーリーマジョリティ(前期追随者):34%
  • レイトマジョリティ(後期追随者):34 %[
  • ラガード(遅滞者):16%

現在、東京都のDX化は「アーリーアダプター」にまで浸透した段階だそうです。今後はアーリーマジョリティが採用するフェーズに進むと期待されます。これは、これから一気にDX化が進むことを意味します。

この講演を聴いて私が痛感したのは、宮坂氏のようなリーダーが東京都庁で副知事という立場でDX化を推進していることで、5年後の都庁の姿は、住民向けのサービスを含めて大きく変わっているということです。私は現在進行中の仕事を通じて「ICT化は無理」と変化を拒む公務員が多いことを痛感していますが、宮坂氏のリーダーシップによって、各地で大きな改革が進むことを期待しています。

【No.50】公務員の常識を覆すDX戦略の現場から
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