カネの問題さえ解決すれば介護ロボットの購入は容易です。しかし、購入したのに残念ながら時間の経過と共に使われなくなってしまう! そんなケースが少なくありません。下記では「介護ロボットを導入しても上手くいかない例」を紹介しています。ぜひ参考にしてみて下さい。
介護ロボットを導入しても上手くいかない例として最も多いと思われるのが、「担当者(職員)を決めたが、後は何も決めていない」というケースです。
「あなたが担当だよ!」と施設長や事務長に言われて一任されたものの、担当者が自ら提案して導入したわけではないのです。いきなり負担が増えたと感じる担当者は使い方を覚えるだけで精一杯。そうなると広い視野から考えることができなくなります。
一方、導入を決めたはずの施設長や事務長は、他の業務に追われる毎日です。介護ロボットのことは、1人、あるいは2人の担当者が抱え込むことになります。
このようなケースの場合、導入当初は担当者が思考錯誤しながらも使おうとします。また、自治体事業の一環として導入する場合は受託事業者のサポートがあるかもしれません。サポートがある期間はロボットを使用するはずです。実証実験の期間中は使うでしょう。
しかし、担当者が導入したロボットに惚れ込んでもいない限り、後に「あまり使わなくなってしまう!」、あるいは「殆ど使わなくなってしまう!」という状態になりがちです。
この事例の問題点は、現場の担当者への落とし込みが不十分であることです。介護ロボット導入に際して、担当者は「仕事が増えた!」「面倒だ!」「なぜ俺が?」と感じるだけになりがちです。
これでは、部下に何か新しい仕事を指示する際に、それまでの経緯や後の工程などを何も説明することなく、「これ、やっておいて!」と作業内容だけを断片的に指示するようなケースと同じです。これでは上手くいかないのです。
よく見られるのが、メーカーや代理店がトップ(理事長、代表取締役など)に営業して導入が決まるケースです。
トップ自身が「これは素晴らしい!」と感じて導入するわけではなく、どちらかというとお付き合い上の関係や外からの政治的な圧力があり「NO!」と断われないまま導入が決まるケースです。
導入を決めたのはトップにも関わらず、実際にロボットを使う人は経営トップのことなどよく知らない、グループ施設の現場スタッフだったりするのです。
介護業界でもM&A(企業の合併買収)が盛んに行われており、いつの間にか大手グループの傘下に入った施設などでは、施設長クラスでもグループトップとは面識がないことも。このようなケースでは、施設長さん自身が「ウチはロボットを押し付けられた!」と被害妄想的に導入していることがあります。
こうなると「事例1:担当者だけを決めて、後は何も決めていない」のケースと同様に、初めは担当者が思考錯誤しながら使おうとしますが、些細なことがキッカケで「このロボットではダメです!」「これは現場で使えません!」という報告になりがちです。
この事例の問題点は、1のケースと同様に、現場の担当者への落とし込みが不十分であることです。「鶴の一声」で導入が決まり、トップが現場に対して「使うように!」と指示を出すだけでは上手くいかないのです。
導入に際しては周到な準備が必要なのです。トップから現場までをあらかじめ巻き込んでおかないと、結局上手くいかないのです。
事例3として紹介するのは、「補助がある!」との情報を得て、国や自治体の補助事業に飛びつきロボットを導入したものの、結局、使わなくなってしまうケースです。
補助金制度の充実とともによく目にするようになりました。これは、まるで自宅の冷蔵庫に何の食材が残っているかをよく確認せずに、スーパーのタイムセールで安いからと飛びついて購入する際の行動心理とも似ています。
国や自治体の補助事業にはメリットとデメリットがあります。最大のメリットは金銭面の補助です。購入する側にとっては、経済的な負担が軽減されて嬉しい限りです。
一方、最大のデメリットは補助事業の公募開始日から締切日までの期間が短いことです。じっくり検討する余裕もないまま意思決定しなければなりません。多くは、デモを見て、稟議書を準備し、法人内で決裁を貰ってから導入することでしょう。そして、導入時にロボットの操作方法を習って使い始めます。
しかし、時間の経過とともに使用しなくなりがちです。「お得だから!」と判断し購入したはずなのに、使わなくなってしまうのです。これでは購入そのものが無駄な出費(時間)になります。
でも、なぜこのようなことになってしまうのでしょうか?
それは、焦って導入したこともあり、受入れの準備が不十分だったからです。おまけに、活用方法のノウハウがないままの導入だからです。また、厄介なのは補助金情報を武器にやってくる代理店などの営業攻勢です。必要ではないなと思っていながら「全部補助金だから…」「面倒な書類作成はウチが担当しますから…」などと言われ、「まあ、いいか!」と軽い気持ちで購入を決めてしまうケースが少なくないようです。
本来ならば「補助があるから」との理由でロボット購入に飛びつくべきではないのです。ロボットを導入・活用する準備ができてから、補助事業の参加を検討した方が良いのです。公募開始から焦って検討開始するのではなく、あらかじめ「ウチは介護ロボットを導入する!」と意思決定をしておき、それなりの準備や活用ノウハウを蓄積しておいた方が良いのです。あらかじめ準備をした上で、「補助事業がありますよ!」と自治体などから情報をキャッチした暁に飛びつく方が良いのです。
しかも、準備とは事業所内の担当者を決めることだけではありません。もちろん、「移乗介助で使えるA社の装着型が欲しい!」、「B社の癒し系のロボットが良い!」などと導入予定の機種を絞り込むことだけではありません。組織として介護ロボットを受け入れる「体制」を整えておくことが最低限必要なのです。
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